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すみません、ちょっと意味がわからないです①

「ー今、なんと仰ったのでしょうか。」


エルミリアは驚愕の色を隠せない表情で、なんとかその言葉だけを絞り出した。

3日間に及んだ魔物討伐から戻り、取り急ぎ報告をと王城に参じたのが1時間ほど前だ。

本音を言ってしまえば、報告など後回しにして王都の家に直帰したい。

そんな気持ちを抑えて報告にあがり、ようやくそれを終えて帰れると内心喜んでいたところを突然呼び止められた。

相手が相手だけに顔には出さなかったものの、さっさと用件だけ聞いて帰ってしまおう。

そんなことを考えていた自分に目の前の男は、なんと言ったのだろうか。

頼むから冗談だと言ってほしい。

あるいは、あまりの疲れから聞き間違いをしたのだろうと笑ってくれたのでもいい。

そんなエルミリアの願いをよそに、目の前の男ことアンクロフト王太子は再度口を開いた。


「聞こえなかったのか?リコリーとの婚約を破棄することとしたと、そう言ったのだ。」


そして眉を顰め、幾分かイライラした様子でそう言い放った。


「さようで…ございますか…。」


それだけ呟くとエルミリアは俯いた。

どうやら冗談でも聞き間違いでもないらしい。

言葉そのものの意味はわかるのだが、アンクロフトが自分に放った言葉の真意が全く理解できなかった。

自分が王都を離れた僅か3日の間に一体何があったというのかと、エルミリアは内心で頭を抱える。

許されるのならば両手で顔を覆って天を仰ぎ、「なんでそうなる!!」と叫んでしまいたい。

それほどに今の状況が理解できなかった。


(ただでさえ今は疲れてるっていうのに、ここにきて頭まで使わされることになるなんて思ってもみなかった…!)


常ならばそれほど疲れることもないが、今回は色々と勝手が違ったのだ。

今回の討伐が初陣となる7名の新兵を率いての行軍。

戦闘に入った途端、予定外に現れた商隊一行。

一般人である商人たちの安全を確保するため護衛に人員を割く必要ができてしまい、当初立てた作戦からの変更を余儀なくされた。

そしてその商隊からもたらされた情報によって追加された緊急ミッション。

そこからの、まさかの空振り。


(あの商隊が現れてから何かと厄介ごとだらけと言うか…予定外の連続ね…。)


こちらの聞き取りにやたらとソワソワしたり、しどろもどろとしていた商隊のリーダーの男のことを思い出す。

あの緊急ミッションがなければあと1日早く戻れる予定だったことを考えると、商隊の存在そのものが怪しく思えてきてしまう。

疲労から普段よりも回転の鈍い頭でなんとか思考しようとするが、この状況ではうまくまとまる気がしなかった。

どうしたものかと思案していたその時、突然アンクロフトから苛立たしげな気配が消えた。

不思議に思ったエルミリアは俯いていた顔を上げて、そしてゾッとした。

先ほどまでとは打って変わって、何の感情も感じさせない表情をしたアンクロフトに、何とも言い表しようのない恐怖を感じたからだ。

例えるなら、限りなく人間に似せて作られた人形と相対しているような、そんな不気味さがある。

人の形をしているのに、人の感情が何も備わっていないのだ。

不気味としか言いようがない。


(様子が、明らかにおかしい…。)


聞きたいことなら山ほどあるのだ。

一体いつから婚約破棄を考えていたのか。

そもそも婚約破棄をするに至った理由はなんなのか。

この婚約が、どちらに利があるものだったかを覚えているのか。

しかしこれらの質問を、今のアンクロフトに投げかけることは憚られた。

と言うよりも、無意味に思えた。


今起こっていることは完全なるイレギュラーだ。

そのことを、自分は「知っている」。

そのことを裏付ける何かが欲しくて、薄気味悪さを抱えながらもエルミリアは唯一の質問を投げかける。


「国王陛下と王妃殿下は、どのように…?」


その問いに、アンクロフトが一瞬目を見開く。

次いで右手で額の辺りを押さえると、その端正な顔をどこか苦しげに歪ませた。

「訊かれたくないことを訊かれた」というだけにしては様子がおかしい。

思いの外過剰に反応されたことを意外に思いつつ、ここは追及するべきだろうとエルミリアは口を開いた。


「アンクロフト殿下、御二方は…」


しかし期待を込めて続けようとした問い掛けは、それ以上を紡げなかった。


「アンクロフトさまぁ」


妙に甘ったるくて甲高い声が、静まり返った回廊に響いたからだ。


初めてのなろう投稿です。

ゆっくり更新になると思いますが、よろしくお願いします!

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