死霊術師2.アンデッドはこれっぽっちなのか?
魔王軍死霊師団長。
それが、ゼルハーニの肩書だ。
今回彼は、ハイドラ山脈周辺で葬られたオークを悉くアンデッドとして蘇らせたはずだった。
しかし――
「おいおい、結局集まったアンデッドはこれっぽっちなのか?」
「そんな……こんなはずはぁー……!」
アレスにどやされるまでもなく、ゼルハーニは愕然としていた。
最終的に集まったアンデッドの数が、百にも満たなかったからだ。
「筆頭参謀からの情報と違う! 事前に送り込んだオークは三万匹以上いるんじゃなかったのかよぉー! 腐乱死体はともかく白骨死体なら、それぐらいあって然るべきなのにぃー……!」
実を言うと、どの程度のアンデッドを作れていたのか、ゼルハーニには把握できていなかった。
彼は《死霊の王》というユニークスキルを持っている。
かなり広い範囲の死体を無差別にアンデッド化できる上に、何度倒されても再生できる、非常に凶悪なスキルだ。
だからゼルハーニたちは死体をいちいち確認せず、山麓のあちこちをスキルの範囲におさめるよう行軍していた。
《アンデッド使役》の命令を受けず放置されたアンデッドが多かったのは、そのためだ。
ちなみにゼルハーニがしきりに三万体という数字を出しているのは、魔王ウーシュムガルから賜ったアーティファクト『尊厳無き者どもの教本』によって拡張された《アンデッド使役》の最大使役数が三万体だからだ。
もうひとつのアーティファクト『髑髏の錫杖』で今みたく集結命令を出せば、蘇っていたアンデッドたちは一斉に動き出す。
そうすればアンデッドたちが大地を埋め尽くす壮観な光景を拝める……というのが彼の目算だったのだが……。
「まったく、なーにが無限の軍勢だよ。口ほどにもなかったな」
「……っ!」
すでに勇者ですらないただのハイオークとなったアレスにここまで言われても、ゼルハーニは歯噛みすることしかできない。
ゼルハーニの《死霊の王》の本来の効果は死体に死霊を憑依させて操る、というものだ。
たとえアンデッドの体を破壊されたとしても憑依させておいた死霊を回収して魔力を回復し、その魔力を使ってアンデッドを再生できる。
ゼルハーニの操るアンデッド軍団は実質的に不滅であり、敵側からすればまさに無限の軍勢だった。
しかし、そもそも死体の頭数が足りなかったら真価が発揮できない。
ゾンビやスケルトン一体一体は弱い。どれだけ再生したところで王都の護りを突破することは叶わないだろう。
「い、いやまだだ。王都周辺にある墓場や霊廟から死体をかき集めれば軍勢は組織可能のはずぅー……!」
オークゾンビによる大軍を作る計画は失敗したが、ゼルハーニは諦めていなかった。
もし彼に死体をかき集められる時間さえあれば、王都をアンデッドで包囲できるチャンスはあっただろう。
しかし、今回に限っては手遅れだった。
「穢れた不浄の命よ。消えなさい!」
突如として女の声があたりに響いたかと思うと、なけなしの百体のアンデッドたちがすべて光の中へと消え去る。
「へ? あ、は……?」
ここ数日間の努力がすべて無に帰る光景を目撃したゼルハーニは、呆けることしかできなかった。
「――ようやく見つけたわよ、死霊術師」
声のした方を振り返ると、そこには。
「テ、テメェは!!」
その姿を認めたハイオークが怒りに身を震わせ。
「お、お前は……!」
ゼルハーニの表情が驚愕に染まる。
彼らの前に立ちはだかったのは、元勇者パーティのひとり。
聖女ディシアに他ならなかった。




