83.まさかシーチャだって止めないわよね?
ようやくみんなのチヤホヤから解放されたシーチャが、げんなりした顔で言った。
「で、報告いいかい? 例のアンデッドはオークのゾンビだったよ~」
オークのゾンビか。
ゾンビはアンデッドモンスターの一種。言わずもがな、動く死体のことだ。
魔王の出現で発生した瘴気により、この世界では弔われなかった死体は人であれモンスターであれアンデッドになる。
ゾンビやスケルトンは、その代表例と言えるだろう。
「ふぅん……まあ、同族同士で殺し合うオークなら、そう不思議でもないのかしらね?」
ディシアの言うとおりだ。
オークは自分より弱い相手に従わない。気に入らない同族と殺し合いをしたり、頭目の寝首をかいて下剋上をすることで有名なモンスターだ。殺されたオークの死体が瘴気でゾンビ化することは、そう珍しくもない。
だけど、シーチャは首を横に振った。
「いや、思いっきり変だよ。だって六体全部、右耳がそぎ落とされてたから」
えっ、それは……。
「それってひょっとして、冒険者に倒されたオークってこと?」
「お。エチカ、正解だよ~。よくわかったね?」
「えへへ! 右耳って聞いてピンと来たのだわ!」
右耳はオークの討伐証明となる部位だ。
それがすべて切り落とされているということは、冒険者に倒されたオークがゾンビ化したということになる。
しかし、正解を言い当てたはずのエチカは不思議そうな顔をした。
「でも、それがどうして変な事なの? 今回の依頼は他の冒険者だって動いてるのだわ」
「いいえ、エチカ! その冒険者パーティは《弔いの祈り》を怠ったことになるわ! ギルドの規約違反どころか、立派な犯罪行為よ!」
討伐した冒険者たちの過失だと決めつけたディシアが怒りをあらわにする。
モンスターの遺骸を放置すると瘴気の影響でアンデッドになる危険があるので、信仰職が《弔いの祈り》を捧げなくてはならない。
俺がエチカと初めてゴブリン退治に出かけたときもギルドには後処理を頼んであったし、なんならノームには洞窟ごとゴブリンの遺体を埋葬してもらった。
今回は、冒険者がそういった後始末をなにひとつせずに死体を放置した疑いがあるということだ。
でも、本当にそうなのかなぁ……。
「パーティに信仰職がいない可能性は……いや、なんでもないのです。それだと回復役がいないことになるのですよ」
レメリも難しそうな顔で考え込む。
ポーションを多めに持っていけば信仰職なしでもパーティは組めるけど、長期的にやっていくなら現実的じゃないよね。
「スラッドはどう思う? こういうシチュエーションに一番詳しいのは君だよね」
シーチャがこちらに話を振ってくる。
自然とみんなの視線が俺に集まった。
「うーん、そうだね。オークが冒険者に倒されたのは間違いないと思う。でも、《弔いの祈り》をサボったっていうのは考えにくいかな。有り得るとすれば《弔いの祈り》をする余裕がない状況に陥ったか、あるいは……死霊術師の仕業だね」
死霊術師は冒険職……いや、禁忌職の一種だ。
彼らであれば弔われた死体であってもアンデッドモンスターに変えられる。
こういった禁忌職は、その職業になること自体が犯罪になる。人間やエルフなどの地上種族が禁忌職に就くことは稀だ。最も高い可能性は……。
「……魔族の仕業、ですか?」
レメリの目つきが鋭くなった。
半分魔族の血を引いているために彼女にとって、魔族は複雑な感情を懐く相手だ。
彼女は魔族と遭遇すると、いつも父親の名前を知らないか聞いている。
詳しい事情は知らないけど、今でも魔族の父親を捜しているらしい。
「その可能性は高いと思う。魔族じゃない犯罪者が禁忌職になっていることもなくはないけど、このあたりにいるオークは魔王軍の斥候だしね。魔族がゾンビとして復活させたと考えたほうが辻褄は合うんじゃないかな」
「ボクとしては冒険者たちの手に負えないオークの希少種……たとえばタイラントオークなんかが現れて《弔いの祈り》が間に合わなかったって線のほうが嬉しいかな~。ま、どっちみちヤバそうな案件ってことはわかったよ」
シーチャが場を和ませるように肩を竦める。
レメリに気を遣っているのかもしれない。
「ひとまずオークゾンビを退治しましょう。いくら報酬がなくても、放っておくわけにはいかないわ。まさかシーチャだって止めないわよね?」
信仰職のディシアにとってアンデッドモンスターは不倶戴天の敵だ。
シーチャも、もちろんだとばかりに頷く。
「手に負えないモンスターならともかくね。それにゾンビなんてディシアの敵じゃないだろ~?」
「どういうこと?」
きょとんとするエチカに、ディシアが勝気そうな笑みを返した。
「エチカは知らなかったわね。それじゃあ見せてあげるわ。神様から授けられた聖女の力の一端をね」




