勇者1.とっくに押し倒してんのによ
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一方その頃。
勇者パーティに激震が走っていた。
「ちょっと……それ、どういうことなのよ!」
「だから逃げたんだよ! 尻尾を巻いて逃げたんだ!」
彼らは宿の食堂で朝食を摂っていた。
しかし、いつまで経ってもスラッドが現れない。
そこで『聖女』が起こしにいこうとしたところ、勇者アレスが深く考えずに「あいつは逃げた」と告げたのだ。
「何言ってんのよ! わたしたちに黙って出ていくわけないでしょうがっ!」
これを聞いた『聖女』は激怒した。
いかにも聖女然とした白い衣に袖を通した容姿端麗の女性だ。
やや緑がかった金髪を振り乱し、聖女には不似合いな指ぬきグローブをはめた拳をギリギリッと握りしめている。
その剣幕にやや押されつつも、勇者アレスが不服そうにつぶやいた。
「あいつはただの荷物持ちなんだぞ……って、おい! どこに行くんだよ!」
勇者アレスが慌てて引き留めたのは『聖女』ではなく、やおら立ちあがった黒い三角帽子の少女だ。
銀髪に赤い瞳。肌が白いというより青白い半魔――人間と魔族の間に生まれた『魔女』である。
「探しに行くのです」
『魔女』は無表情のまま、たどたどしい交易共通語で宣言する。
「無駄だっての! あいつは逃げたんだぞ!」
「私が説得するのです。考え直してもらうのです。無理なら引きずって連れ戻すのです」
『魔女』は勇者パーティに加入するまで交易共通語を喋れなかった。
だから、スラッドから教わった最低限の文法と単語とを文節ごとに区切る特徴的な話し方をする。
しかし、だからこそ……その一言一言には凄まじい力が込められていた。
「お、おい。待てよ!」
慌てて勇者アレスが宿を出ていこうとする『魔女』の手首を掴むが……。
「アレスが邪魔です。離すです」
「いててて!」
『魔女』は強引に振り払って、そのまま宿を出て行ってしまった。
「相変わらずなんて力だ……」
勇者アレスは無理に引きはがされた指を押さえながら、改めて思う。
(魔法職のくせに、なんでレアスキルの《怪力》なんて持ってんだ! そうでなきゃ、魔法職なんざ力ずくでとっくにヤレてんのによ……)
『魔女』には何かと手を焼かされていた。
普段は物静かなくせに、何かの拍子でいきなり感情的になるのだ。
ここ最近は暴走癖もなりを潜めていたのだが、勇者アレスは「こいつも大人になったんだろう」程度にしか考えていなかった。
『聖女』がギリリッと歯噛みして、碧眼に不穏な炎を燃え上がらせる。
「わたしも行くわ! ていうか、勇者パーティの責任を放棄して逃げたなんて……一発殴ってやらなきゃ気が済まない!」
出ていく『聖女』を、勇者アレスは止めなかった。
彼女に至っては《二の打ちいらず》を持っている。素手攻撃で一撃必殺の威力を放てるユニークスキルだが、本人の物理防御力が低いので後衛をやっているというワケのわからない女性だ。
よって、『聖女』のことも見送るしかない。
「クソッタレが……」
『聖女』と『魔女』が騒ぐのはアレスにも予想できていた。
最近のふたりは荷物持ちの肩をよく持っていたからだ。
最初はアレスと同じく彼を軽視していたはずなのに、いつの間にかそうなっていた。
ふたりとも、無類無敵の活躍をする選ばれた勇者アレスではなく。
ただのアイテム係の意見を素直に聞いた。
それが何故なのかアレスには理解できない。
とにかく気に入らなかった。
(『聖女』だって、処女を失ったら力を失うって縛りがなきゃ……とっくに押し倒してんのによ)
アレスは自分を美形だと思っている。
確かに人によっては燃えるような赤い髪と瞳が情熱的に映ることもあるだろう。
しかし、女をモノとしてしか見ていない目つきがすべて台無しにしていると……アレス本人だけが気づいていない。
勇者アレスは乱暴者で、嫌われ者で、仲間には隠しているが強姦と殺人の常習者で。
だけど、魔王を倒して世界を救えるとされる……ただひとりの勇者だった。




