77.これ、あたしがやったの?
「すごいパワー! これなら一度に十本でも二十本でも矢を引けそうなのだわ!」
「弓も魔法で頑丈になったのです。思いっきり引いても弦が切れないはずなのです!」
「これならオークの攻撃でダメージを受けることはないと思うけど、それでも気を付けるのよ」
ようやくバフ合戦が終わったみたいだ。
自信満々のエチカは野営地に向かって目にも止まらぬ速さで駆けていく。
「たあっ!」
そして、何を思ったのか空高くジャンプした。
「って、空を飛んでるー!?」
俺の隣でシーチャが仰天している。
それは、レメリとディシアも同様だった。みんながみんな、あんぐりと口を開けながら天を仰いでいる。
「そうか、シルフさんの上昇気流に乗ってるんだ」
いくらレメリの【筋力強化】を受けているとはいえ、脚の筋力だけであんなに高く跳べるわけない。
自分の体をシルフの風に押し上げてもらっているんだ。
オーク野営地の上空に到達したエチカが短弓を構えた。
弦につがえた矢は、ざっと見ても三十本をゆうに超えている。
「食らうがいいのだわっ!」
エチカが叫び声とともに矢を解き放った。
風と魔力を纏った矢の雨がオークたちに降り注ぐ。
「「「「グギエエエエエッ!!!」」」
オークたちは汚い悲鳴をあげながら次々と倒れていく。
そしてエチカは最後に見事な一回転着地を決めた。
「すごい。本当にすごい……」
思わずそんな呟きを漏らしてしまう。
このときのエチカは本当に輝いて見えたのだ。
いくら付与魔法をかけまくったからといって、まだまだ初心者のはずのエチカがこれほどの活躍をしてみせるなんて……。
「これ、あたしがやったの?」
みんなもびっくりしてるけど、エチカ当人が一番驚いていた。
なにしろ先ほどの掃射ですべてのオークの急所を……頭や心臓を正確に射抜いていたのだから。
「ひゅ~! エチカやるじゃ~ん!」
シーチャが囃し立てるように口笛を吹いた。
「そんなことないのだわ。レメリがいろいろ強化してくれたもの!」
「それでも予想以上なのです!」
レメリがキラキラとした瞳で謙遜するエチカを褒めたたえる。
「大丈夫? 着地のときにどこか捻ったりしてない?」
「平気なのだわ! これもきっとディシアの防御魔法のおかげね!」
ディシアが心配そうに声をかけると、無傷をアピールするようにエチカがぴょんと跳ねてみせた。
みんながエチカに駆け寄る中で、俺だけはその場を動かない。
仲間たちの活躍を少し距離を取って見守る。それが俺のいつものポジションだから。
今更不満はないし、これでいいと思っていたんだけど。
「スラッドもありがとう!」
何故かエチカが俺に駆け寄ってきて、お礼を言ってくれた。
「えっ? でも、俺は何もしてないよ」
「何言ってるの? あたしがこんなにうまく戦えたのはスラッドの《全自動支援》のおかげよ!」
エチカが手を掲げる。
意図がわからず、思わず首を傾げてしまった。
「ほーら! いつものやつ!」
……ああ、そうだった。
「エチカには敵わないなあ」
エチカの手と自分の手を打ち鳴らす。
それは、いつものハイタッチ。
ふたりで力を合わせて勝利を手にしたときに、自然とやっている習慣だった。




