8.シルフさんはお強いですね
受付に依頼用紙を持っていったところ「ゴブリン退治ぃ!? そんなちゃっちいのより、こっちの超古代遺跡探索はいかがですかぁ!?」などと言われたけど、気にせずに受領。
ゴブリンを探して街を出た。
「ゴブリンなら森で見かけたことがあるのだわ。弱っちいモンスターよね?」
「うん、一匹一匹は子供ぐらいの力しかないし弱いよ。体格も小さいし。でもすぐに増えるし群れを作ると脅威になる。放置すると厄介なんだ」
ゴブリン退治は、どのギルド支部でも恒常依頼として必ず掲載されているぐらいメジャーなものだ。
定期的に数を減らさないと、とんでもない災厄になることもある。
「あとはあれよね。女性をさらって、おぞましいことをするっていう……」
「それはホブゴブリンの方だね」
ホブゴブリンはゴブリンの変異種で、一代限りのオスゴブリンだ。
ただし人間やエルフ、ドワーフといった『地上種族』の女性を孕ませることで子孫を残せる。
ホブゴブリンはゴブリンよりも力が強く頭もいいので、しばしば群れのリーダーになる。
小さな集落が落とされたりすると、ホブゴブリンだけで構成された軍隊みたいな群れができることもある。
そうなる前に駆除するのが冒険者の仕事だ。
「でも、どこにいるかはわからないから……まずは巣を作った場所を探さないといけないのね!」
「そういうことだね」
一応、ギルドの方でだいたいこの辺にいるだろうという目星はつけてもらえる。
集落の野菜や家畜が盗まれてたりする場合は、そうした情報も記載されているし。
そんなわけで目撃例のある雑木林を探索していたところ。
「あっ、子供みたいな足跡を見つけたのだわ!」
「おー、早速だね! さすがは森の民!」
イェーイとふたりでハイタッチする。
エチカが見つけたのは子供サイズの裸足の足跡。十中八九ゴブリンのものだ。
ゴブリンには足跡を隠す知恵がないので、とっかかりさえあれば追跡は難しくない。
「足跡が増えてきた。たぶん近いよ」
ふたりして灌木に身を隠しながら足跡を追っていくと。
「向こうに続いてる。多分、あそこに見える洞窟だ」
「洞窟ね! あそこなら、大地の精霊の力を借りられるのだわ!」
「大地の精霊……確かノームだっけ」
ノームは土を操れる上に物理戦闘が得意な精霊だ。
魔法じゃない物理攻撃からのダメージをほとんど受けないから、ゴブリン相手ならほぼ無敵。
魔法を使える変異種であるゴブリンシャーマンがいれば話は変わってくるけれど。
「でも、ちょっと待ってね。もう少し近づいたら見張りを倒そう」
「わかったのだわ」
エチカは勝気なところがあるけど意外にも素直に従ってくれた。
先輩として一応は尊重してくれてるのかな。
あ、そうだ。エルフといえばアレができるはず。
「ところで屋外なら風の精霊を出せるよね?」
「ええ、シルフに手伝ってもらえるのだわ」
「じゃあ、喚んでもらっていい?」
「任せて!」
エチカが何やらピロピロと聞き取れない言葉を発する。
精霊と会話するための精霊語。精霊使いの必修科目だ。
エチカの呼び声に応えて現れたのは風を纏った緑色の女性。
何も着てない全裸の姿なのでちょっとえっちいけど、あくまで精霊だ。
「な、なんだかいつもの友達より大きい気がするのだわ」
「へーきへーき。それで大丈夫だから」
さらに近づくと、洞窟の周りに小さな影が三匹ほど見えた。
禿げ上がった頭に乱杭歯。裸同然の腰蓑姿……間違いなくゴブリンだ。
「確か風の精霊なら、遠くから放った矢を風で導いてくれるよね」
エルフは森の民であると同時に弓を得意とする。
シルフの力を借りると、風をまとった矢で木を避けながら必中の射撃ができるはずだ。
「ええ、もちろん! ここからなら充分に届くのだわ」
エチカが自信満々に短弓を構えて、ゴブリンの一匹を狙おうとする。
「ううん。矢は一度に三本つがえて。三匹同時に倒すんだ」
「へっ? そ、そんなのやったことないのだわ!?」
「経験則だけど、たぶんそれぐらいならいけるよ。お友達を信じて」
エチカが不安そうにシルフを見る。
シルフは「いけるいける、任せて!」と言わんばかりにクルクル回った。
「わかったのだわ」
先ほどとは打って変わって緊張した面持ちで三本の矢を弓につがえるエチカ。
狙いはある程度合っていれば、あとはシルフがやってくれるはず。
「しゅっ!!」
エチカが鋭く息を吐いた。
三本の矢がそれぞれ別の軌道を描いて、ゴブリンの喉に命中する。
「や、やれたのだわ!」
三匹とも同時に倒れた。
離れているし喉に当たったので断末魔は聞こえなかったけど、ばっちり仕留めている。
「す、すごい。三本同時もそうだけど、あんな威力の出せるお友達は森にはいなかったのだわ……」
シルフが「どんなもんだーい」とばかりに胸を張る。
表情はないけど、人間だったらドヤ顔をしてそう。
「シルフさんはお強いですね」
「スラッド! そこはあたしも褒めてくれると嬉しいのだわ!」
などという和やかなやりとりを挟みつつも、俺たちは洞窟に近づいていった。




