70.偶然じゃないってことさ
「オークを三十匹ですよね? なら、一番のおすすめはこれです」
セレネイアさんがカウンターの上に滑らせた依頼書を全員で覗き込む。
なになに……『北部山間部を抜けてくる斥候オークの排除』……?
「うわっ、これ王国軍の依頼じゃん!」
シーチャの表情が一気にげんなりした。
「王国軍って?」
「スラッド……それ本気? セイウッド王国軍に決まってるでしょ。正直、あんまり金払いは良くないんだよね~。冒険者に偏見がないだけ旧大陸の軍よりマシだけどさ」
あー、要するにカシウの部下ってことか。
依頼書には指揮官の名前が書いてあるけど、階級からして直属じゃなくてだいぶ下のほうの人っぽいね。
頃合いを見たセレネイアさんが説明を再開してくれる。
「旧カルナ王国方面からハイドラ山脈を山越えしてくる魔王軍のオーク兵討伐です。まあ、出来高なんで数を減らせって依頼ですね。討伐報酬はギルドでいつもより色を付けて買い取ります。もちろん全部ランクアップのカウントに入りますよ。そちらの盗賊職さんがおっしゃるように報酬は少なめですが支払いが確実ですし、オークのベースキャンプを発見できれば三十匹ぐらい余裕でいますし。ランクアップ目当てなら他のよりおすすめです」
「危険度もそれなりってことなのです」
やや警戒した面持ちのレメリ。
しかし、セレネイアさんは至って冷静だ。
「Sランク相当の活躍をしてきた元勇者パーティの皆さんなら、オークの十匹や二十匹、赤子の手を捻るようなものですよね? しかもスラッドさんがいるともなれば苦戦なんてしようがないでしょう」
「むぅ、それはそうかもですけど……」
レメリが考え込んだ。
まだ勇者パーティだった頃にオークと戦った記憶を思い出しているのだろう。
「一度にそんなにたくさんのオークと戦うの!? とんでもない数だと思うのだわ……」
「正直、三十匹くらいなら余裕だね~」
エチカは不安そうだけど、俺もシーチャに賛成だ。
オークは豚頭の人型モンスター。
体格が良くて力も強いけど、頭はよろしくない。
だから俺の《挑発》にも簡単に引っかかってくれるし、《全自動弱体化》にかかったオークをアレスが気持ちよさそうに倒しまくっていた。
力が強いとはいってもオークの攻撃力ではディシアの防御魔法を抜くのは難しいだろうし、ダメージを受けても即座に回復できる。
少数を各個撃破していくならDランクのパーティでも問題ないし、30匹を同時に相手取るとしてもCランクパーティなら楽勝だ。
エチカはEランクだけど、バフ抜きでもCランク相当の実力。シーチャはもともとAランクだし、ディシアとレメリは勇者パーティ加入の段階でBランク相当の試験を突破している。
つまり、本当にオークだけが相手なら何匹いようと俺たちの敵じゃないのだ。
「魔王軍の相手なら、もともとわたしたちがやってきたことじゃない。むしろやるべきだわ」
ディシアがきっぱりと言い切った。
「うーん、でも討伐数をいくら稼いでもこれじゃなぁ……」
カウンターにぴょんと飛び乗って端に腰かけるように座ったシーチャが――小人族は背が低いので、こういうことをしても咎められない――依頼書とにらめっこしたまま渋っている。
報酬はオーク一匹につき180ゴールド。
恒常依頼の討伐報酬買い取り額である150ゴールド込みの金額なので、普通より少しマシ程度だ。
ちなみに恒常依頼分の150ゴールドはギルドの共栄金から捻出されている。
だから30ゴールドだけ上乗せして冒険者にオークを倒させようとするあたりに、セイウッド王国軍の戦略と懐具合が見て取れる。
もともとセイウッド王国はカシウを中心とした冒険者パーティがモンスターたちを破竹の勢いで討伐しまくってできた国だ。
モンスターの生息域をどんどん狭めていって、一般職の人たちが安全になった土地を開拓している。
正式に建国宣言をしたあとは旧大陸からの移民も積極的に受け入れて、特に冒険者に対してはランクごとの手厚い福利厚生を約束するようになった。
そして冒険者がランクアップのためにやる気を出して依頼を受ければ、ゆくゆくはセイウッド王国の国土が広がっていく事に繋がるってわけ。
さて、ちょっと脱線したので話をオークに戻すと……変異種を除けばゴブリンよりオークの方が強い。
ホブゴブリンとオークが同じくらいの脅威度と考えると、確かにシーチャの言うとおり割安かもしれない……。
ここでセレネイアさんがニヤリと笑った。
「ちなみに、他の冒険者はもう動いてますからね」




