69.婚姻届けの人!!
ディシアを連れてギルドに戻ると、カウンターを挟んでエチカが受付嬢と睨み合っているのが見えた。
「どうしてアンタがここにいるのだわ!?」
「へへへ……努力と執念と、そして適正人事ってぇやつですよぉ……」
一体何事かと、エチカの後ろで首をかしげていたシーチャとレメリに話しかけようとすると。
「あっ、スラッドさんじゃねーですか!」
俺に気づいた受付嬢が目を輝かせた。
エチカ達もこちらを振り返る。
「スラッド! 来ちゃ駄目なのだわ!」
エチカが慌てて叫ぶと同時に受付嬢がカウンターを跳び越えて……えっ、俺の方にすごいスピードで走ってくるんだけど!?
「お久しぶりですー! お元気でしたか? でしたよね? ね?」
なにやら俺を知っているらしい受付嬢が思いっきり顔を近づけてくるので、思わず引いてしまう。
そして両手を素早く捕まれたかと思うと、強引に握手された。
ぶんぶんと手を上下に振られ、頭がさらに混乱してくる。
「えっと。あなた、どこかで……?」
「わたしですよ、わ・た・し! ほら、前の街でスラッドさんに熱烈なプロポーズをさせていただきやした――」
……プロポーズ?
「あーっ! 婚姻届けの人!!」
「セレネイアと申します! 今度は名前を覚えていってくださいましね!」
受付嬢――もといセレネイアさんは最高の営業スマイルを浮かべて謎のキメポーズをとった。
「セレネイアさんですね。どうしてあなたが王都のギルドに?」
「いやぁ、あの後にスラッドさんが王都に滞在してるって聞いて玉の輿を逃したく……じゃねぇ、ご無礼をはたらいたことを一言謝りたくて! 仕事をめっちゃ頑張って正業成績伸ばして、スラッドさんが利用してるっつー王都支部への異動を勝ち取ったんですよ! これぞ愛の為せる業ってーやつです!」
セレネイアさん、その。
愛というか、圧がすごいです。
「スラッド、離れてー! この女は危ないのだわ!」
俺とセレネイアさんを強引に引きはがそうとするエチカ。
「ふ~ん……なんだか面白そうな関係だね~」
ニヤニヤと笑いながら状況把握に努めるシーチャ。
「婚姻届け? スラッドはエチカじゃなくて、この人と結婚するのです?」
いつものごとく無表情のまま天然ボケを炸裂させるレメリ。
「エチカがいるのに浮気かしら? スラッド、一発殴らせなさい」
不穏なオーラを漂わせながら指をポキポキ鳴らし始めるディシア。
「浮気も何も俺はエチカと付き合ってな……いや、えっと! とりあえず、みんな落ち着いて?」
ほら……みんな、すごく見てるからね?
なんだかお腹が痛くなってきたよ……。
「セレネイアさんは俺がアレスに追い出されたときにお世話になった人なんだ。みんなが考えてるような関係じゃないから、誤解しないでね? 婚姻届けも受理してないし」
「そうなのよ! この女が勝手に言ってるだけなのだわ!」
俺の弁明とエチカの訴えに、他の三人は納得したように頷いた。
「ん、まあそんなとこだろうね~」
「なーんだ、びっくりしたのです」
「それならそうと早く言いなさいよ」
ああ、みんな信じてくれた。
日頃のおこないって大切なんだなぁ……。
「スラッドさんってば、つれねーんですからもー。でも許しちゃいます。旦那さんに寛大な奥さんを目指しておりやすので!」
オホホホ、と笑いながらカウンターの向こう側へと歩いて戻っていくセレネイアさん。
いやあ、さっきダイナミックにカウンターを跳び越えた印象が強すぎて、今更上品ぶられてもイメージ払拭できそうにないんですけど。
「さーて、エチカさんのランクアップのためにオーク退治の依頼が別途出てないかどうか、でしたねぇ……?」
あ、もう仕事モードの顔。
さすが王都ギルド支部栄転のやり手、切り替えが早い。
「そ、そんなことを言って変な仕事を掴ませる気じゃないの?」
エチカに疑りの視線を向けられても、なんのその。
セレネイアさんはチチチ、と人差し指を左右に振った。
「舐めねーでくださいよ。仕事はきっちりやりますし。実力相応の依頼をしっかり見繕ってますんで。何よりスラッドさん率いるパーティにそんなカス掴ませるような真似はしませんってば」
「え、俺が率いる?」
……えっと、みんな反論してくれてもいいんだよ?
本当に俺がこのパーティのリーダーなの?
「そりゃまあ、スラッドしかいないでしょ」
シーチャが太鼓判を押すと、全員が同時に頷いた。
リーダーなんてやったことないんだけど、俺なんかで本当に大丈夫なのかな……?




