66.気がついたら堕落してた!
書籍が10/25に発売します。
それに伴い、ゆっくりではありますが更新を再開します。
俺の名前はスラッド・マエスティ。
みんなには隠しているけどSSSランク冒険者なんだ。
今日も今日とて、早朝から薬草採取が捗るね。
「いい天気ね、スラッド! あっ、こっちに薬草の群生地があるって友達が言ってるのだわ!」
そう、それはエチカの揺れるおっぱいとお尻を眺めながら過ぎていく優しい時間。
「んーっ! このお店のお菓子、すごいのだわ! 蜂蜜の甘さと柑橘のすっぱさの得も言われぬハーモニーが……!」
納品が終わった後のティータイムは、ふたりでスイーツ三昧。
「この葉野菜、故郷の味がするのだわ……」
ディナータイムは最高級宿でワインとステーキをこころゆくまで。
「ふぅ……最高だ」
そして、朝には宿で発刊されている新聞の一面記事を読みながら最高級豆のコーヒーを嗜む。
もちろん、ふわふわでぬくぬくのバスローブに身をくるんで、だ。
「それにしても、そっか。今日でアレスに判決が下ってから、もう二ヵ月かぁ……」
『偽勇者の末路』という見出しの一面記事に目を通しながら、ひとりごちる。
せめてアレスの刑が執行されるのを見届けてから王都を出よう……とか考えてたのに。
結局居ついて、そんなに経ったのかー。
「いや、このままじゃいけない!」
俺が椅子から弾けるように立ち上がると、隣で爪に染料を塗っていたエチカがびっくりした。
「スラッド! 急にどうしたのだわ?」
「気をつけてたのに……気をつけてたのに、気がついたら堕落してた!」
最初のうちは自制していたはずなのに……。
そう、お金がカツカツになってきて……ちょっとぐらいいいかなって無料宿のグレードを上げた瞬間から、あっさり戻れなくなった。
元からそんなに辛抱強いほうではないから、余計にだ。
「そもそも薬草採取とゴブリン退治しかしていないのにランク特典だけは使い倒すSSSランク冒険者ってどうなの!?」
カシウの「お前は一度世界を救っているんだし気にするな!」という言葉を鵜呑みにしてしまったのがいけなかった。
みるみるうちに楽なほう楽なほうへと流れていき、エチカまで巻き込んでしまっている。
現にエチカは、これっぽっちも現状に疑問を抱いてなさそうな、ぽけーっとした顔でつぶやいた。
「んー、でもスラッドは人助けもちゃんとしてるし……」
「それは俺がやりたいだけだからね!」
たしかに冒険者ギルドに依頼を出すほどではないちょっとした困りごとを率先して解決していたら、いつの間にかいろんな人に感謝されてたけど。
ランクと全く関係ないし、そもそもお金をもらってないから仕事のうちに入らない。
「この生活も、これはこれで好きよ? 確かにあんまり冒険者っぽくないかもしれないけど、スラッドとあっちこっち見て回るのも楽しいし! ほら、この広告見て! 新作の服がとってもかわいいのだわ!」
エチカはエチカで、すっかり都会慣れしてしまっていた。
今の服装も王都のトレンドの女性ものの服を着てる。
まあ、田舎の森から来たおのぼりエルフが観光を楽しんでいるだけにも見えるし、交易共通語の変な語尾の癖は未だに直ってないけど。
「なんか、ごめんね……」
どうやら新人冒険者に覚えさせてはいけない遊びをたっぷり覚えさせてしまった。
ついつい甘やかしてしまう自分が情けない。
「やだ、スラッドったら! そんなふうに謝らないで! あたし、とっても充実してるのだわ!」
キラキラした笑顔を浮かべるエチカからは、ふわりといい匂いがする。
最近では臭い消しポーションをきっかけに店員に勧められた香水や化粧にハマってしまい、仕事で得た報酬をほとんどつぎ込んでいる。
食費も宿泊費もタダだからこそできる散財だ。
もちろんロクに実績を上げてないエチカの冒険者ランクはEのままである。
「とにかく、このままじゃまずいよっ! 今日はせめて何か違うお仕事を請けよう!」
「あっ、それは個人的に賛成なのだわ! 薬草採取はピクニックみたいで楽しいけど、ゴブリン退治はちょっとマンネリだったし臭いし汚いし……」
「そうだったの!? もっと意見言ってくれていいんだよ!?」
「スラッドに任せておけば大丈夫だと思ってたのだわ~」
ああ、まずいー!
エチカがすっかり自立できない駄目な子みたいな顔になってる!
「思ってた以上に事態は深刻だ……さあ、すぐギルドに行こう!」
「えっと……せめてお皿の上のハニートーストを食べ終わってからにしたら?」
俺の目の前には、ふっくらした四角いパン一斤分。
切り込みが入っていて、たっぷりと蜂蜜がしみ込んでいる朝食兼スイーツだ。
「……そうだね。朝食は大事だし」
たしかにハニトーに罪はないし。
もうちょっと、まったりしてから行こう……。




