60.お前だったらどうする?
「スラッド、お前だったらどうする?」
「え、そこで俺に振るの? うーん、そうだなぁ……」
「そもそもからして、あのアレスに唯一種たる魔王を倒せると思うか?」
唯一種と言われて、頭の中のナイちゃんが「素敵だわ!」と微笑んだ。
「いや、すごく難しかったんじゃないかと思う」
俺の答えにカシウが頷く。
「そういうことだ。勇者に魔王を倒させる……この方法は試みて失敗した。パーティ結成当初、あれほど元気だった旧大陸の勇者派もアレスが問題を起こしすぎたせいですっかり消沈してる。各王国家も神殿もアレスに面子を潰されてカンカンだ。で、陳情書を元に作った報告書を読んだ旧大陸のお偉方は、俺の代案に飛びついてアレスに処罰を受けさせることを強く望んでるってわけだ」
「その代案っていうのは?」
俺の問いかけに、カシウは一度だけ深呼吸してから、何の感情も籠っていない声で答えた。
「この世界が生き残るために、十六柱めの唯一種……つまり魔王との共存和平を目指す」
「魔王と……共存和平ですって!?」
ディシアが立ち上がって叫ぶ。
「有り得ないわ、そんなこと!」
「そうなのです。承服できないのです」
レメリも続いた。
しかし、カシウは首を横に振る。
「それが現実だ。そもそも、本当に聖剣で今回の魔王を倒せるなんて保証はどこにもない。過去に現れた魔王が聖剣で倒されたって伝説が残ってるって神殿が言い張ってるだけだ。それに連中が仕掛けてきているのは、多対多の戦争。魔族が率いるモンスターの軍勢によるな。だったら魔王を討伐する必要なんかない。戦争にしっかり勝って、魔王との間に有利な和平条約を結ぶ。そこが落としどころになる。勇者パーティが……いや、冒険者が魔王を倒しておしまいなんて話は、それこそおとぎ話だ」
「だったら……」
ディシアが力なくつぶやく。
「だったら……なんで勇者パーティなんて結成させたのよ。民衆や神殿がどう言おうが、アレスが勇者だろうがそうでなかろうが、放っておけばよかったじゃない……」
いや、ディシアもこれが無理筋だとわかっている。
魔王がいる以上、勇者を飼い殺しにするなんて世界が許さない。
アレスがどんな勇者なのかなんて、それこそ最初は誰も知らなかった。
何がどうなるにせよ、アレスにはやらせるしかなかったのだ。
でも、パーティ結成の音頭をとったカシウその人が最初から無理だと決めつけていたのなら、自分達の戦いはなんだったのか……ディシアがそう言いたくなるのもわかる。
きっと、シーチャとレメリも同じ気持ちのはずだ。
カシウはどう答えるんだろう?
「スラッドだ」
なんか俺の名前がサラッと出てきた気がするんだけど、気のせいかな。
「スラッドがこっちの大陸にいるのを知ったとき、思ったんだ。勇者パーティにスラッドがいれば、ひょっとしたらがあるかもしれない。十年前に唯一種モンスター……“竜皇后”を倒したっていうスラッドならってな」
「このお菓子おいしい……ん、何? ほんとに俺?」
「ああ、そうだよお前の話をしてたんだよ、このオタンコナス!」
痛い! カシウ、首!
首はやめて!
「唯一種を……?」
「倒したです……?」
ディシアとレメリが呆然としている。
シーチャがポンと手を叩いた。
「あー、そういえばふたりは知らないんだったね~」
「ナイトメア・フェアリーのときに、スラッドがそう言ってたのだわ!」
エチカ、そんな話はいいから俺を助けて!
カシウのヘッドロックは敵意のないスキンシップだから、俺のスキル発動しないの!
「どういうことなのよ!」
「説明してほしいのです!」
「おう、聞きたいか? スラッドの武勇伝」
ぜえぜえ、ディシアとレメリのおかげでようやく解放された。
全く酷い目に遭ったよ。




