58.ぶっちゃけアレスのことを
「いや~、みんな裁判なんてモンに付き合わせて悪かったな! こう、いろいろと事情があったんだ。どうかこの宴席に免じて許せ!」
「それはいいけど、ちゃんとみんなにも理由を話してよ。俺たちとしてはすごくなんというかこう……モヤッとしたままなんだ」
「よし、いいだろう。そこんところをトコトンぶちまけようじゃないか!」
カシウは顔を真っ赤にして、すっかり出来上がっていた。
「それで、どうしてこんな裁判を?」
俺が尋ねると、カシウはわざとらしく難しい顔をつくる。
「ま~、そうだな。お前ら、ぶっちゃけアレスのことをどう思う?」
「最悪なのです」
「救いようのない男ね」
「勇者だなんて信じられないのだわ!」
レメリを筆頭に、ディシアとエチカが口々にアレスを槍玉にあげる。
シーチャだけは無言で肩をすくめた。
俺も首を振るだけに留めておく。
「そう、そのとおり。俺も同じだったんだ。裁判をやった一番の理由はそれだな」
裁判の堅苦しい様子はどこへやら。
カシウは杯を片手に実にさっぱりと言い切った。
「よりによってあいつは俺の国の開拓村で生まれやがった。子供の頃から悪名高いガキ大将で、女癖も悪かった。で、十五歳の成人式に行われる神殿のスキル鑑定で、奴に《勇者の資質》を持ってることが判明しちまった。その直後に事件を起こして村にいられなくなったアレスを王城で引き取って教育しようとしたんだが、既にどうしようもなく天狗になっちまってて。本当に最悪の勇者誕生って感じだったなぁ……」
カシウは遠い目をした。
勇者パーティ結成時に聞いた話によると、カシウ自身が成人したアレスに剣の手ほどきをしたものの、ロクに練習をしなかったらしい。
努力が嫌いなアレスにとって、カシウのスパルタ訓練は迷惑以外の何者でもなかっただろう。
「だが、奴が勇者であることだけは紛れもない事実だ。天地をひっくり返したって、そいつは変わらん。何より、かつての勇者たちがこれまでも現れてきた歴代魔王を聖剣で倒してきたって前例がある。ま、大昔のことだから本当かどうかわからんが、伝説は広く信じられてる。旧大陸の国家連中のお偉方もそうだし、当の勇者伝説を標榜する神殿もうるさくてな。それになにより――」
カシウは一度目を伏せてから、噛みしめるように言った。
「ともに地獄をくぐり抜けてきた同胞達に『勇者は実はクズだから魔王を倒すのは諦めよう』『これからもアンデッドになった家族を焼き続けよう』……だなんて、俺には口が裂けても言えなかった。だから、俺が個人的に奴をどう思っていようとアレスに勇者をやらせるしかなかったんだ」
「それで俺たちを集めたの?」
「やらせるからには本気を出すさ。裁判でも言ったが、最高のメンバーを集められたと自負してたんだぜ?」
それに関してはまったく同意見だ。
アレス以外、本当に最高のメンバーだったと思う。
「実際、アレスも無事に活躍してるようだったし、最初のうちはまあ良かったんだ。だが、戦果を挙げたことで調子に乗ったんだろうな……あいつは少しずつ、良くない方向に自信をつけていった。自分を最強の勇者だと疑わないようになった。それがスラッドのスキルの効果だとも知らずにな」
あー、そういうことか。
勇者パーティの底上げとして良かれと思って俺を加えてみたはいいものの、うまくいきすぎてしまったと。
実際、負けなしの無双状態だったもんなぁ。
「もしかしたら、スラッドをメンバーに加えたことだけは俺の失敗だったかもしれん……」
力なくつぶやいたカシウが、がっくりと項垂れた。




