53.この子を迎えに行ってあげなくてはいけないわ
俺達は、あてがわれた休憩室でお茶をもらった。
原告席のディシアは別室なのでいないけど、それはしょうがない。
「これでアレスも終わりです」
「なんだかあっけなかったのだわ~」
レメリとエチカはすっかりリラックスしている。
だけど、いつもなら軽口を叩くシーチャが、一言も喋ろうとしない。
ずっと俯いている。
「シーチャも人が悪いのです。あんなすごいスキルなのです。早くアレスに使えば良かったのです」
あっ、レメリ。その話は……。
「ごめん、ボクちょっと行くね」
「あ、シーチャ!」
止める間もなくシーチャが足早に部屋を出て行った。
「私、なにかまずいこと言ったです……?」
「シーチャも普段から言ってるけど、スキルの話はデリケートだからね。特にユニークスキルは」
というか、スキルの話に一番敏感なのがシーチャだったんだよね。
ディシアも過敏だったけど、シーチャはあからさまにスキルの話を避けてたし、みんなにも注意を促してた。
レアスキルのない劣等感なのかと思ってたけど……どうやら事情が違ったらしい。
「あう……あとで謝らなきゃなのです」
レメリがしょんぼりする。
シーチャが出ていった扉がゆらゆら揺れているのを見て、思わずつぶやいた。
「……あとでがあるかな」
「へ? スラッド何か言ったです?」
レメリがきょとんとしているけど、それ以上にシーチャのことが気にかかる。
「俺、シーチャを探してくるよ」
「さすがに無謀だと思うのです」
「盗賊職には追いつけないのだわ」
確かにふたりの言うとおりなんだけど。
「うーん、だからといって放っておけないよ。ふたりは待ってて、すぐ戻るから」
なんとなく三人全員で探したらシーチャが見つからない気がしたので、ひとりで探しに向かう。
そもそも盗賊職が本気で隠れたら俺なんかに見つかりっこないのだけど、これが正解な気がしたのだ。
「旅人さん、旅人さん。こっちよ」
「ナイちゃん!」
姿は見えないけど、声だけが聞こえてくる。
ナイちゃんの声に従って走っていくと……。
「えっ、シーチャ?」
シーチャは自分に割り当てられた部屋の前で眠りこけていた。
部屋の扉は半開きのまま、シーチャの格好は完全に旅支度を整えている。
まるで荷作りを終えて、城から去ろうとしたタイミングで睡魔に襲われたかのよう。
「シーチャ、やっぱり俺達に黙って出て行こうと……?」
まさか、ユニークスキルを俺達に知られてしまったから?
「旅人さん、旅人さん」
シーチャの陰からひょっこりとナイちゃんが顔を出した。
「あなたは、この子を迎えに行ってあげなくてはいけないわ。この子を永遠に失う前に」
「それって、どういう……」
すべて言い終える前に俺は強烈な睡魔に襲われて、その場に倒れてしまった。




