51.これより、勇者裁判を始める
そして、あっという間に裁判当日がやってきた。
裁判所は高低差のある謁見の間といった感じのつくりで、一番奥の裁判長席にセイウッド王国の国王カシウ=セイウッド=ベルクラフトが座っている。
セイウッド建国王ベルクラフト。
新大陸で数多のモンスターを討ち取り開拓を成功に導いた、知らぬ者のいない大英雄。
すでに齡五十を過ぎ、白髪も混じり始めているのに、身に纏う覇気はまるで衰えを見せない。
素人の俺でも感じるのだから、みんなの受けるプレッシャーは計り知れないだろう。
あれでも抑えているのだから、本当にすごい。
他にも文官っぽいのが何人もいるけど、王の存在感が凄すぎて誰が誰やらって感じ。
入り口を正面にして右側の原告席にはアレスとディシアが。
左側の被告席には勇者パーティ脱退組である俺、シーチャ、レメリが座っている。
対面のアレスは裁判での勝利を確信しているみたいで、俺たちを見てざまあみろと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「それではこれより、勇者裁判を始める」
「……あん?」
王の最初の一言目を聞いて、アレスが怪訝そうに唸る。
しかし裁判はそのまま進行した。
「まずは原告の主張から。勇者アレスよ、前へ」
「おうよ」
アレスが中央の証人台へと移動して、裁判長席の王を見上げた。
「そなたの訴えるところによると、パーティの魔女と義賊と荷物持ちが勝手に離反し、多大な損害を被ったとのことであったが、これに相違ないか?」
「おう、間違いないぜ! 奴らが――」
「もうよい。下がれ」
「――いきなり逃げて……って、俺はまだ全部言ってねえ!」
「下がるのだ」
食い下がろうとしたアレスだったが、王の眼力の前にすごすごと引き下がった。
「では次に聖女ディシア。前へ」
「はい」
アレスと入れ替わりに、ディシアが証言台に立った。
「そなたはただひとり勇者パーティに残っているが、勇者の言っていることに相違ないか」
「いいえ、勇者の言っていることはすべてデタラメです」
「てっめぇ、ふざけんなよメス豚がぁ!」
アレスがキレて唾を飛ばすが、王は至って冷静に指示を出した。
「……法廷魔術師。原告席の勇者に【強制沈黙】をかけよ」
「はっ! 【強制沈黙】」
「って、おい、やめ――……」
アレスはまだ何か叫んでいるようだが、声になっていない。
【強制沈黙】の効果で音を奪われたからだ。
裁判参加者は裁判長を除いて法廷魔術師の魔法に抵抗できない。
裁判冒頭の宣誓により、そのような制約をかけられているからだ。
「証人以外は勝手に喋るな。勇者アレスよ、魔法の効果時間が切れた後に同じことをしたら退廷を命じる」
「――ッ! ――ッ!!」
明らかに不服そうな様子だったが、アレスはしぶしぶ席についた。
「聖女ディシアよ。勇者の言ったことはデタラメだというが、現に三名がパーティを離脱している。これは如何なることか?」
「王よ、順を追ってよろしいでしょうか」
「許す」
「まず最初に、勇者アレスはそこにいる荷物持ち……スラッドを勝手にクビにしました」
そこから先、ディシアはこれまでの経緯を偽りを交えず、包み隠さず話した。
ところどころに王から確認が入ったが、俺のスキルを除いてはすべて正直に明かしている。
そして、証言はレメリがワイバーンに殺されそうになった場面で締めくくられた。
「……斯様にして、魔女レメリも勇者アレスにはついていけぬと離脱したのでございます」
「ふむ。よくわかった。下がれ。被告側、聖女ディシアのこれなる証言に補足はあるか?」
あれ、誰も何も答えないな。
「……スラッド・マエスティ。お前が被告を代表して答えよ」
「あっ、俺か。特にありません」
「そうか。ならば、まずは勇者アレスの訴えは退ける」
アレスが立ち上がって、何かを主張しようとしている。
だけど【強制沈黙】の効果時間が切れていないので、何も聞こえない。
「聖女ディシアの証言が被告側と一致するというのであれば、これは意見不一致による内部不和であるとみなす。リーダーであるアレスが責任を問われこそすれ、我々が口を出すような問題ではないと判断する。よって、被告側は無罪」
……ああ、やっぱり。
王が裁判を起こした目的は最初から別のところにあるんだ。
みんながびっくりしてるけど、これ自体は意外でもなんでもない。
アレスなんか衝撃のあまり口をぽかんと開けたまま、唖然としているけどさ。
「では続いて……アレスの勇者資格の是非について問う」
どうやら、ここからが本番みたいだ。
アレス……どうやら君も自分の罪と向き合うときが来たみたいだよ。




