50.これ以上は不安要素を投入しないでほしいのだわーっ!
「……まさか、と思ったわ。ベルクラフト陛下はアレスの要望を聞き入れて、裁判を決定したの。それでみんなも今は王城に呼ばれて、あなたもこうして……」
「なるほどね」
俺やみんなが王城にいる理由はよくわかった。
アレスの起死回生の一手が功を奏するかもしれないから、みんなどことなく不安そうな顔をしてたのか。
「もちろんアレスの主張が通るだなんて思わないけど、裁判は三日後よ。たぶん、目覚めた以上はあなたも出廷を求められるわ」
「そうだろうね」
裁判、か。
うーん、王はどういうつもりなんだろう?
「に、人間の国のことはよくわからないのだわ……でも、大丈夫よね? 死刑になったりとか……」
「わたしは勇者パーティサイドだけど、みんなのことはきちんと守るわ。アレスの横暴を全部ぶちまけるつもり」
不安がるエチカを安心させるように、ディシアが力強く宣言する。
「いいのです? そんなことをしたら、です。アレスは勇者として活動できなくなるかもです」
「そうね。でも、だからって――」
「いや、それはないよ」
ディシアの言葉を遮って、俺はレメリの危惧を否定した。
「アレスが勇者として活動できなくなる、その心配はない。むしろ、俺たちのほうがまずい立場に晒されるかもね」
「どっ、どういうこと!?」
エチカが涙目になって叫んだ。
「ディシアとレメリは薄々感づいているかもしれないけど……アレスが半年間、何のお咎めもなくいろんな横暴を……例えば街の酒場で乱闘を起こしたりとか、貴族の屋敷で窃盗を働いたりとかしても投獄されないのは、アレスが勇者だからだよ」
「で、でもです。アレス、何度も衛兵にしょっぴかれたです。反省は促されてたのです」
レメリが藁にもすがるような顔をする。
「うん。でも、それだけだ。アレスは牢屋行きにも、鉱山送りにもなってない。『勇者免罪』……アレスは自分の立場をよくわかった上で、今回の謁見を求めたんだと思う」
少なくとも破れかぶれのやけっぱちではない。
アレスは愚かだけど、保身に関してだけは知恵が回る。
「そういうことね……わたしが止めておくべきだったかしら?」
「いや、ディシアが止めてもアレスはひとりで謁見しただろうからね。むしろ、俺たちがわけもわからず王城に連行されなくて良かったと思うよ」
わからないのは王の意図だ。
はっきり言って、パーティ内のいざこざを裁判にする理由がわからない。
アレスの望み通りにするだけなら、そのまま俺たちを牢屋に入れれば済むことだ。
だけど、俺の部屋はあきらかに賓客用。
これから問答無用で断罪される側の扱いじゃない。
だからといって、逆にアレスを吊るし上げるメリットがあるとも思えないし……。
「アレスに裁判の取りやめをさせるにしても、接触を禁じられているのよね……」
ディシアが腕組みして考え込んでいる。
レメリはどうしたらいいのか、わからなそうな顔。
エチカなんて今にも泣きそうで……。
「……そういえば、なんでエチカまで王城にいるの?」
「ほえ?」
エチカが変な声を出した。
俺が言ってることの意味がわかってないみたいだ。
「俺たちは裁判で王城に召喚されたんでしょ。少なくとも、勇者パーティのごたごたにエチカは無関係だと思うんだけど」
「えっと、宿に兵士さんが来たときにスラッドの仲間って言ったら、一緒についてくるように言われたのだわ」
レメリとディシアが意外そうな顔をした。
「レメリは一緒じゃなかったの?」
「そ、そうなのです。買い物をしてたのです。私は後から聞いたのです」
「そっか。エチカは出廷は求められた?」
「えっと、そういえば裁判で質問されたら答えてくれって言われたような……」
「それって証人じゃない!」
ディシアが驚いてエチカの両肩を掴んで振り向かせた。
「だったら、ここにいたら駄目よ! わたしたちと口裏を合わせたと主張されたら証言能力を失うわ!」
「えーっ! じゃあ、あたしここにいちゃいけなかったの!?」
「でも、兵士さんには止められなかったのです」
そうだよね。
俺たちが接触しちゃいけないんだったら、そもそもこうやって俺たちが会話できてるわけがないんだ。
個別の部屋を用意されて、最低でも軟禁されるはず。
そう、まともな裁判をやるつもりなら……。
「ひょっとしたら……」
「ひーん! スラッド、これ以上は不安要素を投入しないでほしいのだわーっ!」
エチカがすがりついてくる。
正直、まだこの裁判の意図はこれっぽっちもわかってないんだけど……。
「この裁判は『勇者免罪』がないかもしれない」




