聖女4.よくぞ戻った、勇者アレスよ
次の日の朝もあなたは起きなかった。
だからシーチャがこのまま王都まで移動しようって提案して、みんな賛成したわ。
そもそもの目的地だったし、あなたを起こす方法があるかもしれなかったしね。
アレスが何か言ってたけど無視よ。
あなたの体はレメリと同じ馬に乗せて、ロープで固定したわ。
あなたが落ちそうになっても《怪力》で支えられるし。
そこからはアレスも大人しくなったから、もう話すこともそんなにないだろうって?
確かに、パーティ内でアレスが何かをしでかすことはなくなったわ。
「アレスは足手まといなのです」
「ちゃんと頑張ってよね~」
「クソッ、いったいどうなってんだ……?」
街道でも魔王の瘴気にあてられたモンスターが襲ってくるんだけど、アレスだけが苦戦するのよ。
あなたが眠っている間もスキルは全自動で発動していたんでしょうね。
みんななら一撃で倒せるモンスターも、アレスだけ最後の一匹とずっと戦ってたりとかして。
「ねぇアレス、まだ~?」
「もうすぐ! もうすぐトドメだ!」
「もうそいつだけなのです。私の魔法なら一撃です」
「手ェ出すな! こいつはオレの獲物グエッ!?」
「【怪我治療】……まったく、余所見してるからよ」
「クソッ、こんなはずは……!」
正直、あなたのスキルの話は半信半疑なところもあったんだけど。
実際、ここまで違うものかって思ったわね。
強化とかそういうレベルじゃなくて、なんていうの?
潜在能力が限界まで引き出されてるんじゃないかって、そういうレベル。
本人の自覚なく敵が弱くなったようにしか感じないって、ホントに不思議なスキルよね。
それと聞きたいんだけど、わたしにも《全自動支援》は有効だったみたいなのよ。
アレスのパーティにいるままなのによ?
スキルが判断したんだろう? ふーん、基準がよくわからないわね。
そんなこんながあって、特に大きな寄り道もしないで王都に着いたわ。
途中で馬は返却して代わりに馬車をレンタルしたけど、それは別に問題なかったわよね?
お金? あなたの冒険者バッジのおかげで無料で借りられたわよ。
本当にすごいのね、Sランク以上の冒険者の扱いって。
アレスには適当に誤魔化しておいたから、安心してちょうだい。
王都に入ってからはパーティも違うし、わたしはアレスといっしょに行動して、みんなとは別行動になったわ。
宿の名前はシーチャから聞いたから、いつでも会おうと思えば会えると思ってたしね。
ここでアレスが王城に行くと言い始めたの。
王城に帰還した勇者ご一行ってことでね。
何か企んでるっぽかったから警戒してたんだけど……。
「よくぞ戻った、勇者アレスよ」
アレスはまず、王に謁見したの。
キャッ! どうしたのよスラッド、急に吹きだしたりして!
別に面白い場面じゃないじゃない。
そういえばエチカとレメリもついてきてなかったから何があったか知らないのよね。
王に謁見したのは、アレスとわたし。
シーチャももちろんいなかったわ。
あとで内容を伝えた方がいいかしらね?
ああ、エチカは知らないんだったわね。
もともと、わたしたち勇者パーティはここ……『セイウッド王国』の王城で結成されたのよ。
スラッドも、シーチャも、レメリも、そしてわたしも。
あと一応アレスもここに集められて、魔王討伐の名目で旅立ったのよ。
ええ。わたしたちを勇者パーティとして組ませたのはセイウッド王国の国王……カシウ=セイウッド=ベルクラフトその人なの。
森で過ごしてたエルフでも、さすがに新大陸の建国英雄ぐらいは知っているでしょう?
“無類剣”の称号を持つ、元SSランク冒険者の勇名ぐらいはね。
実際、彼が立ち上がってみんなをまとめなかったら、わたしたち人間は魔王軍に滅ぼされていたわ。
そこまで魔王軍が脅威だったとは知らなかった?
まあ、そうでしょうね。ここ十年ばかりは確かに魔王軍を押し返せているもの。
それに魔王軍は何故かエルフには攻撃してないらしいし。
シーチャみたいに勇者なんてどうでもいいなんて言えるのは、昔の地獄を知らない旧大陸出身者と若い人がほとんどなのよね。
それにしても、スラッドはさっきからなんで笑いをこらえてるのかしら……?
「して、勇者アレスよ。今日はどのような用向きか?」
「……王よ。オレは多くのモンスターを討ち取ってきた。魔王の手勢を減らし、ダメージを与えてきた。だが、その働きが充分に評価されているとは思えない!」
え? アレスの話し方が王様に対して無礼じゃないかって?
アレスは敬語ができないみたいなのよ。きっと覚える気がないのね。
「それは、そなたの言動にも問題があるのではないか?」
「そんなことはねぇ! ……いや、そんなことはない。俺は勇者として正しく振る舞っている。問題はオレにあるのではなく、アンタが用意したメンバーにある!」
王様相手に、すごいわよね。
要するに、アレスは「王様、お前が悪い」って言ってるんだもの。
本当に恐れ知らずの愚者というか。
ある意味では間違いなく勇者ね。
「ここにいる聖女以外は、全員が俺のパーティから逃げ出した! どいつもこいつも魔王に恐れをなして逃げ出したんだ! 連中は今、幸いなことに王都に来ている。罰を与えてくれ!」
お察しの通り、アレスはみんなを告発しようとしたのよ。
本当になんというか、馬鹿よね。
まあ、このあたりになってくると別に意外でもなかったから驚くでもなく成り行きを見ていたんだけど……。
「なるほど、そうか。では、そなたの望み通り裁判を執り行うとしよう」




