聖女2.私の名前、言ってみるです
「そんなことより、そこのエルフの女は誰だよ」
きっと旗色が悪いことを悟って、アレスは話題そらしを試みたのね。
「えっ、あたし!? あたしは~……彼の仲間なのだわ!」
エチカが慌ててあなたを指差して言ったわ。
その返事を聞いて……アレス、いったいどうしたと思う?
大爆笑したのよ。
「ぎゃ~っはっはっはっはっはっは!! 冗談だろ!? そこの役立たずのサボリ魔の、仲間ァッ!?」
そのときは……そうね。
全員怒りすら忘れて、アレスのことをただ黙って見ていたわ。
「お前さぁ、騙されてるぜ。そこでグースカ寝てるのは何の取り柄もないアイテム係、荷物持ちが関の山のクズだ。そんな奴よりよぉ、俺のパーティに入らねえか? 聞いて驚け、俺は勇者。勇者アレス様なんだよ。本来なら最低でもAランク冒険者じゃなきゃパーティには入れねえんだけど、お前は俺の愛人枠ってことで特別に入れてやってもいいぜ! 俺は将来、魔王を倒して王になる男。つまり未来は安泰だ。どうだ、悪い話じゃねーだろ?」
本当に楽しそうにゲラゲラと笑ってたわ。
これまでもそういうアレスは何度も見ていたけど、下品なクズとしか思ってなかった。
でも、スラッド……あなたの話を聞いた後だと、まったく違う印象を受けたわ。
それはきっと、みんな一緒だったのね。
「本当に……スラッドの言うとおりだったのだわ」
「あぁん? スラッドぉ……?」
「あなたって……本当に自分のことしか愛せない、かわいそうな人なのね」
エチカって、本当に心の優しい女の子なのね。
アレスのために涙を流したのはエチカだけだったわ。
あら、そんなに照れなくたっていいじゃないエチカ。わたしは心の底からあなたを褒めているのよ。
え? いいから話の続き?
もう、わかったわよ。
それで、そうね。
アレス本人だけはエチカに言われた言葉の意味がわかってないのか、意味不明なことを言い出したわ。
「スラッドって、なんだ? エルフ語か何かか?」
さすがに絶句したわね。
そう、あの男はあろうことかスラッド……あなたの名前を憶えていなかったのよ。
「名前だよ、アレス。君が役立たずって言ってるアイテム係の名前さ」
「ああ、なんだ。そいつ、スラッドって名前だったのか」
シーチャの指摘を受けて、アレスがどうでもよさそうに吐き捨てたわ。
これまでも、何度もその名前自体は聞いていたはずなのにね。
もちろん許せないって気持ちはあったけど、さもありなんって気もしたのよね。
アレスはいつもスラッドのことなんて眼中にない、目障りって感じだったから。
だから、そう意外でもないかと思ったんだけど……。
「アレス。私の名前、言ってみるです」
「あぁん? なんだ、何言ってやがる」
あのときばかりはアレスと同じ感想を懐いたわ。
レメリ、急に何を言い出すのってね。
「言えるです? いいえ、言えないはずです。アレス、私の名前、憶えてないのです」
「はっ、そんなわけねーだろ。えーと、ほら、リエリとかだろ?」
絶句したわ。
シーチャもびっくりして、おそるおそるアレスに確認を取り始めたの。
「えっ、まさかと思うけどさ。アレスってば、ボクらの名前……みんな憶えてなかったりするんじゃない?」
荷物持ちだと馬鹿にしてたスラッドだけじゃなくて、わたしたちまで?
そういえば、アレスに名前を呼ばれたことなんてついぞなかった。
「う、うるせーっ! 名前がなんだってんだよ! 別にいいだろ、そんなことは!」
その答えを聞いて、あなたの言葉を改めて思い出したの。
仲間じゃなくて手駒。
他人のことはどうでもいい。
自分のことだけ。
ああ、そうか……仲間の名前を憶えてない、たったそれだけのことだけど……全部わかるものなんだなって。
アレスが本当に底の浅い、程度の低い男なんだってね。
あいつにはクズなんて呼び名すらもったいないほどだわ。
「私は勇者パーティを抜けるのです。ついていけないのです」
「あぁん? そんなこと言っていいのかよ?」
レメリの宣言にアレスも最初は余裕をかましてたわね。
でも、レメリの本気がわかるにつれて焦りだしたわ。
「アレスは黙るのです。私はスラッドのパーティに入るのです」
「なっ、てめぇまで頭トチ狂ったんじゃねえのか!?」
「狂っているのはアレスなのです」
それでレメリはエチカとあなたの側に移動したわ。
えっ、それだけで終わりなのかって?
そんなわけないじゃない。
ここからが本番よ。




