46.こんなにお互いのことを知り合ったら友達でしょ?
俺がナイちゃんを忘れなかったのは……やっぱり《全自動弱体化》のおかげかな。
夢を現実だと錯覚させる効果はナイちゃんの意志じゃないから、力そのものを敵対する害悪だとスキルが認定して効果を失わせたとか?
《全自動弱体化》が効いていたとは……道理でみんな簡単にぽんぽん記憶を思い出すわけだ。
だけど、思い込みを訂正するかのようにナイちゃんが俺の周りを飛び回った。
「いいえ、いいえ。旅人さん、きっとあなたのスキルは力じゃなくて……わたしそのものを弱体化させていたわ。わたし自身が永遠の存在だから、老衰の効果を受けていないだけ」
「なるほど」
つまり、俺のデバフの老衰効果は魔王とかにも通じないんだな。
「そう、そう、そこよ。それこそが核心なのよ」
「え? どういうこと?」
「あなたのスキルはわたしにも通じる。つまり、魔王にも通じるのよ。もし、わたしのことを滅ぼすことができるなら、魔王を滅ぼすこともできるはずなの」
どういうこと?
ナイちゃんはいったい俺に何をさせたいんだ?
「旅人さん、旅人さん。わたしには自分の力が止められないの。これからも世界のどこかに夢屋敷が出現して、多くの人達を夢に誘うわ」
「そうか。君が夢を見せる能力、忘れさせる能力は全部、俺のスキルと一緒で……」
「ええ、ええ。あなたが言うところの全自動よ」
そういうことだったか。
制御できない力を止める方法。
それが、つまり――
「旅人さん、旅人さん。わたしに触れてみて。あなたの力で不滅のわたしを滅ぼすことができるか、試してみるのよ」
やっぱりそうきたか。
つまり、ナイちゃんは俺に自分を殺してくれと言っているのだ。
「でも、君が死んでしまったら、ここで夢を見ている人たちは……」
「いいえ、いいえ。それは残念ながらと言うべきかなのかわからないけど、あなたのスキルが効果を及ぼしているのはこの屋敷……つまり、わたしだけよ。既に本体に取り込まれて夢を見ている星々を解放してあげることはできないわ。でも、実を言うと『ナイトメア・フェアリー』の端末はわたしだけなの。この屋敷を倒せば、少なくとも新たな誰かが夢に取り込まれることはなくなる。まだ本体に取り込まれていない勇者の子も起きる。そして、わたしと同期している本体が新たな端末を作ることも決してないわ……」
ナイちゃんが俺の眼前まで飛んできて、小さな瞳で俺の目をジッと見つめてくる。
「迷う理由はないと思うわ。旅人さんが勇者の子の夢の中に登場できない以上、彼を起こす方法はひとつだけ。それが、わたしを滅ぼすこと。夢物質で作られている屋敷を現実世界から倒すことはできない。本来ならわたしの見せる夢の中で……わたしの正体をはっきりと自覚した状態でわたしを殺すと願う必要がある。でも、誰にもできなかったわ。みんなわたしの夢に例外なく取り込まれたの。あなただけ、あなただけがわたしを殺せるの。あなたに止めてもらえるなら、悔いはないわ。でも、どうせなら……わたしにあなたのスキルが通じるかどうか試してほしいの」
うーん。
ナイちゃんの言ってることも、わかる。
わかるけど……。
「そんな顔をしないで。これはとっても素敵なことなのよ」
「いいや、違う。そんなのはぜんぜん素敵じゃないよ!」
俺はなんとなく腹が立って、ナイちゃんを叱りつけた。
「旅人さん、旅人さん。そんなに怒らないで。悲しいわ」
「そんなこと言って。君が要求してることのほうがよっぽど悲しいよ。友達に友達を殺せだなんてあんまりじゃないか」
「……友達? わたしと旅人さんが友達?」
「そうだよ。もうこんなにお互いのことを知り合ったら友達でしょ?」
ナイちゃんが不思議そうな顔をする。
人の心を読んだりできるくせに、相変わらず自分に対することについてはすごく鈍感だ。
「そもそも。もう反省して悪さはしないって言ってる子を殺すなんて、俺には絶対にできないし。もちろん、復讐したいって人が現れたら止められないとは思うけど……」
必死に説得するとは思う。
だけど、止められないこともある。
そういうことは過去にも何度かあった。
どうしようもない、本当に悲しいことが世の中にはたくさんある。
でも、だからこそ俺は自分が諦めようとは絶対に思わない。
「ねえ、ナイちゃん。ひとつだけ俺にいい考えがあるんだ」




