5.言わないでもらえると嬉しかったんだけど
拳を再び上げようとしたところでガンザは気づく。
重い。体がとてつもなく重くて、腕が持ち上がらない。
「なんだこいつは……動けねえっ! てめぇ、魔法を使いやがったな!」
「いいえ。俺はさっきから何もしていません。ここにいるだけです。でもあなたは俺に敵対したから……《全自動弱体化》の対象になって、どんどん弱くなっているんですよ」
「《全自動弱体化》だと……そんなスキル、聞いたこともねぇ!」
「ユニークスキルですので」
ユニークスキルと聞いたガンザの背筋に寒気が走った。
世界でただひとり……その者しか持っていない、神から与えられた一代限りの才能。
レアスキルも任意の取得ができないが、比べるのもバカバカしい。
ユニークスキルの取得者は、いずれも歴史に名を残す英雄ばかりだ。
ユニークスキル持ちの新人だとしたら、スラッドはとんでもない逸材である。
スキルによってはあっという間にランクアップするだろう。
そこでガンザは大きな違和感を覚えた。
「いや待て……どうして俺にスキルを明かした!?」
スキル、それもユニークスキルともなれば、冒険者にとっては秘中の秘のはずだ。
普通に考えたら見ず知らずの冒険者であるガンザにバラすはずがない。
しかし、スラッドはなんでもないことのように言った。
「素直に降伏してほしいからです。このままではガンザさんが死んでしまいますので」
スラッドは単にガンザの身を案じていた。
スキルを明かすことで自分が将来的にデメリットを受けるより、自分のスキルで人が死ぬほうが嫌だったのだ。
もっとも。
スキルの効果を知った上で発動条件を満たさないように攻略しようとした者は《全自動弱体化》の発動条件を満たして人知れず謎の不審死を遂げると……スラッド本人も知らなかったりするのだが。
故に無敵。
故に無敗。
スラッドのスキルを知った者は誰であろうと二度と敵対することを許されないのだ。
「ふざけんなよ……俺はレアスキルすらない叩き上げだ。自力でBランクまで上がったんだ。ぽっと出のユニークスキル持ちなんぞに負けてたまるか……!」
言葉とは裏腹にガンザが膝をつく。
体を、自分を支えきれない。
「こ、こいつは……違う! 重いのは俺の体じゃねえ! 鎧だ、鎧が重いんだ……!!」
「だから重くないかと聞いたんです。だいぶ筋力が低下してますので、このままだと危険ですよ」
ガンザはついに倒れてしまった。
ピクリとも動けなくなる。
「あなたの負けでいいですか?」
「じ、冗談じゃ……!」
「駄目ですよ。そのまま降伏しないと脆くなった全身の骨が少しずつ折れていきますし、いずれ内臓も潰れて死に至ります。お願いだから降伏してください」
ガンザは自分の前にしゃがみこんでいる男に恐怖をおぼえた。
死ぬと言ってる割に殺気はなく、つかみどころのない顔をしていて、その口調はガンザの身を本気で案じているかのようだった。
だが、負けられない。ユニークスキル頼りのこんなぼけっとした新人にBランクの称号持ち冒険者である、このガンザ様が――
「元SSSランク冒険者のスラッド・マエスティ様! すぐにギルドマスターがお会いになりたいそうです!」
ギルド受付嬢の声が聞こえた瞬間、ガンザの心はぽっきりと折れた。
自分の負けを認めた瞬間、全身を包む重さが嘘のように消える。
スラッドとの敵対関係がなくなって《全自動弱体化》の対象から外れたのだ。
しかし、ガンザには立ち上がる気力すら残っていなかった。
「SSSランク冒険者……新人じゃなかったの!?」
受付嬢の隣でエルフの女が驚いている。
他の見物人の反応も似たようなものだ。
「えーと、それ。言わないでもらえると嬉しかったんだけど……」
そしてスラッドは勝利を喜ぶでもなく、困ったように頭を掻いているのだった。




