44.あなたに裸の自分を見せたいわ!
屋敷の扉をノックすると、いつも通りにナイちゃんが俺の目の前に現れた。
既に屋敷の中だ。
「旅人さん、旅人さん。次の夢だけど……」
ナイちゃんがすごく言いづらそうに、もじもじしている。
「登場するのは難しそう?」
「そうなのよ、そうなのよ。勇者の子の夢には、他人が入り込めるような余地はないわ」
「うん。実を言うと、そんな予感はしてたんだ」
レメリには俺に会いたい理由があった。
ディシアには他者を許容する度量があった。
アレスには、どちらもない。
おそらく彼の夢は極めて自己中心的な、己の欲望を満たすだけの内容になっているだろう。
「一応聞くけど、見ることはできる?」
「旅人さん、旅人さん。それは確かにできるのだけど、おすすめしないわ。たとえ見ている人にとってはいい夢でも、他の人には悪夢にしか見えないこともあるの。わたしの見せる夢と夢が重なり合うことがないのは、そのためなのよ。夢は自分のためだけの世界でいいの」
「そっか……」
どっちみち見るだけでは俺が不快な気分になるだけだろう。
少しぐらいヒントが得られるかと思ったんだけど、ここまで引き留めてくるということは代償の方が大きそうだ。
「旅人さん、旅人さん。もうよしましょう? ずっと眠っていた方がいい人もいるわ。その人も幸せな夢が見られるし、その人が現実で誰かを不幸にすることもないもの」
「そういうわけにもいかないよ。彼は勇者。魔王を倒せる聖剣を振るえる、唯一の存在なんだ。どうあっても起きてもらわないと」
「もしも……そうじゃないとしたら?」
ナイちゃんが思わせぶりにつぶやいた。
「魔王を倒す方法が聖剣以外にもあったなら、旅人さんはどうするの?」
こちらの目をジッと見つめてくる。
まるで俺の心を試すように。
「それはそれとして、アレスは起こす」
「えっ!」
俺が即答するとは思ってなかったらしく、ナイちゃんはびっくり仰天していた。
「アレスをどうするかの結論は確かに出てないけど、みんなで決めたんだ。彼には起きてもらう。そんでもって、みんなに一発殴らせるんだ。ひょっとしたらアレスも改心するかもしれないしね。ないだろうけど」
「本気なのね。それが、あなたの願いなのね……」
何故か泣きそうな顔になるナイちゃん。
「ナイちゃんは、さっきから何をずっとそんなに悩んでるの?」
「えっ。わたしって、そんなふうに見えるのかしら?」
「うん、すっごく見える」
ナイちゃんは俺たちとは違う存在みたいだけど、感情はあるみたいだった。
俺の願望に沿った姿を得たことでコミュニケーションできているけど、不慣れだからなのか気持ちを隠したりするのがすごく下手だ。
「ああ、なんてこと、なんてこと。全部バレバレだなんて、とても恥ずかしいわ」
「それは俺も同じことを言いたいよ。ついでに、君の悩みを知りたいなって思ったりもしてるよ」
「破廉恥よ、破廉恥よ! わたしの中を覗くことが願望だなんて……ああ、でも素敵! わたしもあなたに裸の自分を見せたいわ!」
ナイちゃんがキャッと恥じらうと、屋敷が消えて上下のない星空が無限に広がる空間になった。




