4.その鎧、重くないですか?
「ちょっと! 誰か止めて!」
「い、いや。悪いけど無理だ。あいつはBランク冒険者のガンザ。熊殺しの称号持ちだ。このギルドじゃ誰も逆らえない」
ひとりの冒険者の言葉にエルフの女が顔を青ざめさせた。
「そんなに強い冒険者相手に、あたしを庇ったせいで……」
「お待たせしましたーって、あれっ!? ここにいた人を知りませんか!」
元荷物持ちの男を応対していた受付嬢が大慌てで戻ってきた。
エルフの女が叫ぶ。
「それどころじゃないのだわ! ガンザとかいう奴が新人を外に連れて行ったの!」
「ガ、ガンザさんがっ!? あ、新人って……ひょっとして黒髪で、ごく普通の麻の服を着てませんでした?」
「そうだけど……そんなことどうでもいいのだわ! 早く助けないと大変なことに!」
エルフの返事を聞いたギルド受付嬢がサーッと青ざめた。
「そ、そいつは確かにやっべーです! はやく止めてあげねーとガンザさんが大変なことに!」
「そうよ、止めて……えっ、ガンザのほう?」
急にガラの悪くなった受付嬢が口にした内容に若干の違和感を覚えるエルフの女。
しかし、ギルド受付嬢が足早に外に出てしまったため、エルフの女もついていくしかなかった。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
スラッドとガンザはギルド前の表通りで相対していた。
ただならぬ雰囲気に通りすがりの人々が集まって、ふたりを囲っている。
「俺はガンザだ。てめーの名は?」
「スラッドです。それより、こんな表通りでやるんですか? 人気のないところの方がいいと思いますが……」
「いいんだよ。お前の無様な姿をギャラリーに晒してやらねぇと……なあ!」
ガンザがいきなりスラッドに殴りかかる。
彼の拳は熊を素手で叩き殺せる凶器。
もちろん、殺す気はないので手加減している。
殺しでなければ衛兵は金で買収できるし……せいぜい半殺しで済ませてやろうと、ガンザは気楽に手を出した。
だが、ガンザの拳撃はあっさり回避される。
「なっ!?」
ガンザが驚愕に目を見開く。
彼は、この街で最強の冒険者だ。
なのに、その動体視力をもってしても動きを捉えられなかった。
しかもスラッドはかなりのスピードで動いたというのに、涼しい顔をしたままだ。
「この野郎!」
ガンザは連撃を繰り出した。
今度は全力だ。殺す気で殴りかかっている。
しかし……そのすべてを、スラッドはいともたやすく躱していく。
「野郎……なんて速さだ。本当に新人かっ!?」
「それは違います」
渾身の右ストレートをかいくぐったスラッドがガンザの眼前に迫った。
「あなたが遅くなっているんです、ガンザさん」
「うわあああっ!!」
慌てたガンザが腕を振り回すが、スラッドにはかすりもしない。
「ぜえ、ぜえ……」
「これ以上はよしませんか? あなたのように有望な冒険者をみすみす潰したくない」
ガンザは肩で息をしていた。
そこで初めて「なにかがおかしい」と感じる。
この程度の運動で自分が息切れするはずがないと。
「あなたのその鎧、ダマスカス鋼製ですよね。そんな鎧もあなたほど鍛えている『戦闘職』なら、軽々と扱えるんですね。羨ましい。でも……その鎧、重くないですか?」




