32.スラッドおじちゃんのこと好きです!
願いを告げた瞬間、景色が様変わりしていた。
いつの間にやら俺は、木漏れ日が差し込む広葉樹林の中に立っている。
夢のはずなのに草木の臭いがとってもリアルだ。
「ここは誰の夢なのかな?」
俺がつぶやくと、ポンッと煙とともにナイトメア・フェアリーが現れた。
「あらっ、他の人の夢の中にまでわたしを呼んでくれるのね! 嬉しいわ!」
「うん、君にしかわからないことだからね。でも、そんなに嬉しいの?」
「もちろんよ、もちろんよ。わたしのことを知っている人でも、夢の中でわたしに会いたがる人はあまりいないもの」
笑っているけど、ナイトメア・フェアリーはどことなく寂しそうだ。
相手が望んでいることしか見せられないなら、自分に会いたがってない人の夢には登場できない……なるほどなぁ。
「それでね、それでね。ここは魔女の子の夢よ」
「レメリのか。なんだか勝手にお邪魔しちゃって申し訳ないな」
「きっと大丈夫よ。この子は三人の中で一番あなたに会いたがっていたから、夢に登場させるのは簡単だったもの」
そうだったんだ。
別れも告げられなかったし、かわいそうなことをしたなぁ。
「この先に進むと、あの子の家があるわ!」
「あ、待って!」
はしゃぎながら先に飛んでいってしまうナイトメア・フェアリー。
導きに従って森の中を歩いていくと、木を切り開いた空間にぽつんと一軒家があった。
こぢんまりとした小さな家だ。不思議な形をした煙突から、これまた不思議な形の煙が出ている。
庭先には様々な珍しい花が生えていて、色とりどりの蝶々が飛び回っている。
庭の切り株にレメリによく似た三角帽子を被った女性が座っていて、近くで遊んでいる二人の子供を幸せそうな笑顔で見守っていた。
「あの帽子はレメリの……」
「ええ、そう。あの子の亡くなったお母さまよ」
ああ、そういうことか……。
じゃあ、子供のうちどちらかがレメリなんだ。
「あれ? でも、ふたりとも肌の色が……」
半魔族であるレメリの肌は青白色のはずなのに、どちらの子供も人間の肌だ。
「旅人さん、旅人さん。そこは察してあげて」
ナイトメア・フェアリーがしんみりと言う。
そうか……半魔族じゃなく、普通の人間に生まれることもレメリの望みだったということか。
「さあ、さあ。どうするのかしら?」
わくわくした様子で俺の動向を見守るナイトメア・フェアリー。
それはもちろん……。
「こんにちは、いい天気ですね」
「まあ、普通に挨拶するなんて! 素敵だわ!」
この子は俺が何をしても褒めてくれるんじゃなかろうか。
「こんにちは、旅の御方。こちらにはどのようなご用件でしょうか?」
突然現れた俺を不審がるでもなく、笑顔で挨拶を返してくれるレメリのお母さん。
「レメリに会いに来ました」
「スラッドおじちゃんですー!」
子供の片割れが俺の方に走ってきて、足元にぎゅっと抱き着いてきた。
「わわっ、君がレメリ?」
「そうですー!」
明るくて元気があるなぁ。
俺の知ってるレメリとだいぶ違う。
「あのね、スラッドおじちゃんのこと好きです!」
「そうなんだね。おじちゃんもレメリちゃんが好きだよー」
よしよし、と撫でてあげると「えへへ」と嬉しそうに笑うレメリちゃん。
ああ、いけない。このままほだされてしまったら、俺まで夢に囚われてしまう。
「えっとね、レメリちゃん。ここは夢の中なんだ。だからおじちゃんが迎えに来たんだけど、いっしょに来てくれる?」
「やですー!」
「そっかぁ……じゃあ、出直すね。すいません、お母さん。お邪魔しました」




