30.なんでスラッドがSSSランクになれたのか、わかる気がしてきたのだわ
「唯一種モンスター!? それって、神話とかで語られてるようなヤバイ奴ってこと!?」
シーチャが顔面蒼白になって跳び上がる。
唯一種モンスター。
単に唯一種とも呼ばれる存在は全部で十六柱しか確認されていない、非常に強力な個体だ。
いずれも神に等しい力を持ち、人間に代表される地上種族では太刀打ちできないとされている。
「うん、そう。別の世界からこの世界にいろんな形で顕現してて、土地によっては神として崇拝されたりもしてる。ナイトメア・フェアリーの本体もこの屋敷じゃなくて、分身を現実世界に飛ばしているだけ……らしいね」
「ひえっ、ボクさっきちょっと壁を触っちゃったよ! どっくんどっくんって、鼓動がしたんだ!」
さすがのシーチャもビビってる。
まあ、無理もない。
「大丈夫。基本的に害意のないモンスターらしいから」
「えっと……らしいっていうのは~?」
わずかに希望を抱いたのか、目を輝かせるシーチャ。
「ナイトメア・フェアリーは誰かを傷つけたり殺したりしない。名前のとおりに夢を操る能力を持っていて、訪問者を眠らせて夢を見せることしかしないんだ」
「な、なんだ。それならフレンドリーモンスターってことじゃん」
シーチャのいうフレンドリーモンスターは瘴気の影響を受けず、凶暴化しない。
だから『調教師』によって使役されていることもある。
「まあ、ね。ただ俺たちの価値観というか、尺度に照らし合わると、そうとも言い切れないんだ」
「どういうこと?」
エチカが首をかしげる。
「ナイトメア・フェアリーの夢から覚めて生きて帰れるかどうかは、本人の運次第なんだ。原則として屋敷に入った者は二度と目覚めない」
長い沈黙が訪れた。
しばらくしてからシーチャがそろ~りと、踵を返す。
「さ~て、と。ボクはそろそろこの辺で……」
「ちょっと! ここまで来て仲間を見捨てるつもり!?」
エチカがシーチャの小さな肩をがしっと掴んだ。
「そうは言うけど無理でしょ! ていうか唯一種モンスターって、要するに魔王みたいなもんだからね~っ!? なんでこんな普通の街道沿いでエンカウントするのさ!」
「なんで魔王が関係するのだわ?」
「……魔王が後から追加された最弱の十六柱目って言ったらヤバさが伝わる?」
「えっ、魔王が最弱って……」
「魔王なんて唯一種の中じゃぺーぺーの新人なの~!」
昔は十五柱だったらしいしね。
魔王が出てきたのって何年前だっけ。
俺が生まれるより少し前だから五十年ぐらい前だったと思うけど。
「それに運が良ければ帰ってこれるんなら、まだ希望はあるってことでしょ~? だったら、のんびり出てくるのを待とうよ!」
「うーん、他のふたりはわからないけど。アレスは無理じゃないかな」
「なんでそう言い切れるのさ~」
俺に楽観論を否定されたのが不満なのか、唇を尖らせるシーチャ。
「ナイトメア・フェアリーの見せる夢って、ナイトメアっていうぐらいだから悪夢って思いがちだけど、実際には『その人が思い描く理想』を夢にして見せてくれるらしいからね」
「あ~、なるほど。そりゃアレスは寝たきり勇者だわ」
「納得してる場合じゃないのだわ! 早くなんとかしないと……」
うーん、と真剣に悩み始めるエチカとシーチャ。
そんなふたりに俺は朗らかに笑いかける。
「んー。たぶん、なんとかなるよ」
「何を根拠にそんなことが言えるのさ」
呆れたようなジト目を向けてくるシーチャに俺はあっけらかんと答えた。
「俺のパーティ、前に唯一種モンスターを倒したことあるから」
「「ハアアアアアアアァァァァァッ!?」」
ふたりとも、声が大きいよ。
ナイトメア・フェアリーがびっくりしちゃう。
「まあ、倒したって言っても同じく端末みたいなもんだったけど。本体は多分、自分の領域の中で無事なんじゃないかな? ハハハ」
「ハハハ、じゃないでしょ! そんな話、ボクも初めて聞いたんだけど~!」
「そりゃだって、別に俺の手柄だったわけじゃないし」
いつもの如く、その場に居合わせただけだったんで。
「ああ、でもあれがきっかけで、俺もあっちの大陸ですごく有名になっちゃったんだよね。参ったよ」
十年くらい前だったかな。
ついこの間のことのように思い出せる。
「なんでスラッドがSSSランクになれたのか、わかる気がしてきたのだわ……」
「右に同じく……」
俺が思い出を振り返っている間に、何故かふたりが頭を抱えている。
うーん、でも確かに当時のパーティみたいな万全の態勢じゃないし、ふたりを連れていくのはまずいか。
「無理そうなら待ってて。俺がナイトメア・フェアリーと話して、みんなを返すように頼んでみるから」
「唯一種と話すって……い、いや! そうだね! それがいい! ボクはいざというときのために後詰めをするよ~!!」
半ばヤケクソになったシーチャが真っ先に俺の提案に乗ってきた。
「あ、あたしは……」
「エチカこそ入っちゃ駄目。俺が失敗したときは、勇者がナイトメア・フェアリーに囚われたって王国に知らせてもらわないといけないし。シーチャとふたりでね」
「う、わかったのだわ……」
エチカがしょんぼりしている。
「ごめんなさい。大切な時に役に立てなくて」
「そんなふうに思う必要なんてないよ。もし君がいなかったら、俺とシーチャが何も気づかずに、夢に囚われてしまったかもしれないんだし」
ナイトメア・フェアリーだって気づかなかったら、アレスたちと合流したっていう夢を見せられて、そのまま夢の世界を冒険していたかもしれない。
「スラッド。三日間戻らなかったら、ボクらは王都に行くから」
「わかった。ありがとう、シーチャ」
手を振って、屋敷の方へと向かう。
「絶対に、絶対に帰ってきてね! あたしたちのこと、夢の中でも忘れないでね!」
振り返ると、エチカは涙ぐんでいた。
「うん、必ず戻るよ」
笑顔で手を振ってから再び屋敷に向き直る。
深呼吸してから、俺は屋敷の扉を叩いた。




