勇者4.なんで守ってあげなかったのよ
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「グルアアアアッ!!」
そのモンスターは咆哮とともに空から現れた。
「ワイバーンです!」
『魔女』が叫んだ。
勇者パーティはワイバーンと戦ったことがある。
前は特に苦戦もしなかった。だから問題ない相手だと思われたのだが……。
「ぐわっ!?」
勇者アレスがワイバーンの尾による刺突を受けて、腕から血を流した。
「なんだこいつ……希少種か? 前に戦ったときよりもかなり強いぞ!」
ワイバーン……蝙蝠のような飛膜の翼を持つトカゲのような姿のモンスターだ。
全長は馬三頭分ほどあり、偽竜とも呼ばれている。
「うげっ……クソ、気分が……!」
そしてワイバーンの尾の先端には毒針がついていて、今まさに勇者アレスは猛毒に侵されたところだ。
「毒治すから! 【解毒治療】!」
「クソッ、毒を治すと傷の治療が遅れるか!」
『聖女』のおかげで毒は消えたが、先ほどの攻撃で受けた傷はまだ治らない。
魔法の行使には呪文の詠唱が必要なので、すぐに回復魔法は使えない。
そして、一撃離脱戦法を用いるワイバーンは空中だ。
勇者アレスの聖剣は届かない。
旋回し、勢いをつけて再度の降下攻撃を仕掛けてくる。
「【風の刃】!」
詠唱を完成させた『魔女』がワイバーンに攻撃魔法を放った。
【風の刃】は風属性の初歩的な攻撃魔法だが、空を飛んでいる敵に対して特に有効だ。
前のワイバーン戦では羽根の飛膜を切断して、地面に落とすことができた。
『魔女』はそのことを覚えていたのだが……。
「落ちてこないです」
『魔女』の声がわずかに震えている。
【風の刃】は確かにワイバーンの羽根に命中したが、被膜に傷をつけただけで切断には至らなかったのだ。
「畜生、やっぱり希少種かよ!」
前回戦ったときは魔王軍の幹部が騎乗していた個体だったが、明らかに今回戦っているワイバーンの方が強かった。
もちろん、勇者アレスの予想は外れている。
このワイバーンは希少種などではなく、ただの普遍種である。
《全自動支援》がないから強く感じるだけなのだ。
そんなこととは露知らず、勇者アレスは再度の攻撃に備えて聖剣を構えたのだが……。
ワイバーンがいきなり軌道を変えた。
『魔女』のいるほうに。
【風の刃】は多少なりともダメージを与えた。
そして、勇者アレスの聖剣はまだワイバーンを傷つけていない。
「あっ……」
ヘイトコントロールに失敗したことに気づいた『魔女』は、身に迫る恐怖に腰を抜かす。
それが幸いした。
尾針は『魔女』の頭上をかすめ、彼女のトレードマークである三角帽子を串刺しにして空へと舞い上げた。
「おい、もう一発食らわせろ!」
勇者アレスが叫ぶ。
だが、『魔女』はガタガタ震えていて魔法を唱えるどころではなかった。次はない。
ワイバーンが再び旋回して『魔女』にとどめを刺さんと舞い戻る。
「あ、あああ……」
迫ってくるワイバーンを見上げながら、『魔女』は走馬灯を見ていた。
半魔ゆえにただでさえ青白い顔が恐怖でさらに青くなって、涙がとめどなく溢れ出る。
それを見たアレスは、刹那のうちにこう思った。
(ああ、あいつ死んだなぁ。まだ喰ってねえのに。早いところヤッとくんだったな)
助けに入れば間に合う距離にもかかわらず、アレスはただ見ている。
ワイバーンと『魔女』の間に入れば、代わりに毒針を受けることが確実だ。
ならば手駒を守る理由など、あろうはずがない。
半魔の少女の命運にあっさりと見切りをつけ、『魔女』抜きでワイバーンをどう倒すか勇者アレスが算段し始めたとき。
「歯ァ食いしばれ、クソトカゲ!」
『魔女』の目前まで飛んできたワイバーンの横合いから『聖女』が渾身のパンチを繰り出した。
次の瞬間、ワイバーンの頭部に『聖女』の指ぬきグローブを嵌めた拳がめり込む。
ユニークスキル《二の打ちいらず》の効果により即死したワイバーンはそのまま彼方へ吹っ飛んでいった。
「よ、よかった……当たった」
『聖女』が力なく呟き、肩で激しく息をする。
信仰職の『聖女』のパンチがワイバーンに命中したのは完全に偶然だったが、なんとかやり遂げた。
仲間を守ることができたのだ。
「スラッド……」
『魔女』のか細い声を聞いた『聖女』がハッと振り返る。
『魔女』は茫然としたまま涙を流し続けていた。
顔からは生気が失われていて、今にも死んでしまうのではないかとさえ思える。
「そう、よね……あいつだったら、きっと」
あのときと同じように、迷わず『魔女』を庇うはずだ。
鎧も着ていないのに。
ただの荷物持ちなのに。
パーティの中で、誰よりも死にやすいはずのに。
あのときだって、『魔女』を庇って死にかけて。
慌てて回復魔法をかけて、なんとか蘇生させられて。
こちらが怒っているのに、ケロッとした顔で。
「ありがとう! よかった、無事だった」と。
そんなふうに笑うに決まっている。
ああ……それに比べて。
コイツはいったいなんなのか――?
「ははっ、やったな! やっぱお前、戦闘職になった方が良かったんじゃねえの?」
ケラケラと無神経に笑いながらふたりに近づいてくる勇者アレス。
その笑い声が、これ以上ないほど『聖女』の癇に障った。
「……なんで守ってあげなかったのよ」
「あ?」
「あの状況でこの子を守れたのは、アンタでしょうが! 魔法使えとか指図してる暇があったら走って駆け付けなさいよ!」
「何言ってんだよ。オレの聖剣が届かないのに、そんなことしてもしょうがないだろうが」
「【風の刃】ぐらい勇者なら使えるでしょう!」
「あー、その手があったか。だったら、あいつが死んだ後でも俺が魔法で倒せてたんだなー」
勇者アレスに仲間を守るなんて発想はない。
前に出るのは聖剣で気持ちよく敵を斬るためだ。
初歩の魔法は聖剣より威力が低いので、使うという発想にそもそも至らなかったのである。
愉快そうに笑う勇者に、『聖女』がゆらりと近づく。
その顔には何の感情も浮かんでいない。
「な、なんだよ」
何となく気圧された勇者が後ずさった瞬間。
パァン、と空気が破裂するような音がした。
『聖女』が勇者アレスの頬を張ったのだ。
「…………あ?」
「アンタ、本当に最低のクズね」
それだけ言って『聖女』は踵を返した。
『魔女』のところに駆けつけて、甲斐甲斐しく介抱を始める。
「……は? なんでオレが殴られたわけ? マジでわけわかんねえんだけど」
一方、自分が悪いことをしたと微塵も思っていない勇者アレスは、静かにキレていた。
(ふざけやがって……信仰職だから処女じゃなきゃいけないとか、もう知るか。絶対ヤッてやる。ついでに役立たずになった魔女の方もヤッとくか。他に誰もいないし、口封じも簡単だしな! ふたりとも死体はモンスターに食わせちまえばいいし……さっすがオレ、あったまイイー!)
『魔女』をおぶって前を歩き始めた『聖女』の尻を眺めながら、アレスが舌なめずりをした。
過去にも勇者アレスが仲間と衝突したことはある。
そんなときに仲を取り持ってパーティを持続させていたのは、いつもスラッドだった。
だけど、彼はもういない。
(とはいえ、『聖女』の神聖装束は厄介だしな……よーし、今夜だ。あいつが装備を脱いだところで決行する!)
アレスが嗤う。
シーチャの予言した勇者パーティ崩壊は、すぐそばまで迫っていた。
再三注意:この作品にヒロインのNTR、殺害要素はありません。




