25.勇者はそんなこと一言も言ってなかったぞ!
俺たちはランク特典で全員分の馬を借りて、街道を走らせた。
まさか馬まで無料で借りられるとはびっくりだ。
しかも、エチカが精霊使いと知ったシーチャのアイデアで、シルフさんに追い風を作ってもらっているのですごく速い。
シルフさんが音を届けてくれるので大声を出さなくてもお互いの声が馬上でも届く。
「風がとっても気持ちいいのだわ!」
「アレスは馬を使ってないはずだし、これなら追いつけそうだ!」
アレスは馬に乗るのが下手なので、徒歩で移動している。
一日以上の差があるけど、これなら追いつけるかもしれない。
馬を走らせてほどなく、前方に奇妙な光景が見えた。
「あれは……」
前方に人が集まっている。装備はまちまち。
こちらには注意を払ってなくて、地面に転がってる何かを運んだりしている。
「街道警備隊みたいだね~」
シーチャの言う通り、見回りの警備隊みたいだ。
それと荷運びが得意そうな男手が何人も。
荷車に運んでいるのは……モンスターの死骸?
「ちょっと話を聞いてみよう」
「じゃあ、お友達に風を止めてもらうのだわ」
エチカが精霊語でシルフさんに語り掛けると、風が止んだ。
馬から降りて警備隊長と思しき鎧の人に話しかける。
「ここで何があったんですか?」
「勇者が倒したっていうモンスターを片付けてるところさ。放っておくと魔王の瘴気でアンデッド化しちまうからな。だから宿場町で人手を集めて来たんだが、いい迷惑だよ」
詳しく聞いてみたところ、この先の宿場町の駐在所にアレスたちが文句を言いに来たという。
どうやらアレスが警備隊の怠慢を非難しつつ、手柄を自慢してきたらしい。
業腹ではあるものの、警備隊としてはモンスターが放置されているなら片付けないといけない。
「そうだったんですか」
「片付けだけはこっちに回したくせに恩着せがましく言いやがって。なんであんな奴が勇者なんだか……」
警備隊長さんは憤懣やるかたない様子だった。
勇者パーティは王国から支援を受けていて、冒険者のようにいちいち素材の買い取りなどをしてもらわない。
だから、モンスターの死骸はこうやって放置しがちだ。
「でも、アンデッド化の心配はないと思いますよ。勇者パーティには『聖女』がいます。弔いの祈りを捧げてるはずです」
「なんだって!? 勇者はそんなこと一言も言ってなかったぞ!」
「あー、そうですね。そこまで頭が回らなかったんじゃないでしょうか?」
「なんてこった。街の神殿には司祭を手配するよう手紙を送っちまったのに……」
宿場町の駐在所に乗り込んできたのはアレスだけらしい。
誰がどう見ても信仰職の『聖女』を警備隊が見ていたら、こんな行き違いは起きなかったはずだ。
「いえいえ、悪いことばかりでもありませんよ」
片付けられていく死骸を見た俺は、その正体に思い当たった。
「モンスターはアーマーバッファローの群れだったみたいですから」
「アーマーバッファロー? こいつらが?」
アーマーバッファローは、十頭以上の群れを作って長距離を移動する牛型のモンスターだ。
表皮が甲羅のようになっていて非常に頑丈だから、鎧の素材になる。
侵攻ルートをまっすぐ突っ切っていく習性があるので、運が悪い集落などが滅ぼされたりすることもある恐ろしいモンスターだ。
「これだけいるなら運ぶのも手間ですし……冒険者ギルドに伝えれば鑑定人を送ってくれると思います。素材が結構な高値で買い取ってもらえますし、結果的に宿場町は潤うことになるんじゃないでしょうか」
「それは本当か!?」
「ええ、俺も冒険者ですので。先を急ぐのでお手伝いまではできませんが……」
「いや、充分だ! おかげで、やる気がモリモリ湧いてきた!」
警備隊長さんが俺から聞いた話を他の人にも伝える。
そのせいか作業する人たちの顔も見違えるように晴れやかになっていた。




