22.君が恋しくなったからさ
それからはしばらくエチカがふてくされてたけど、甘いお菓子を買ってあげたらあっさり笑顔になった。
女の子が甘いもので機嫌を直すのはエルフも変わらないらしい。
ともあれ、概ね冒険者に必要なものは買うことができた。
エチカに体を包める外套を買ってあげたので、不必要なときにまで肌を晒さないで済む。
俺が性欲を持て余す心配もなくなるわけだ。
まあ、外套を脱いだときに目が奪われるのは避けられないだろうけど……。
買い物だけですっかり遅くなってしまったので、今夜も豪華な宿屋でお泊り。
夕飯には高級豚のステーキが出てきて舌鼓を打ったけど、こんな生活を続けていたら絶対に堕落すると改めて思った。
「ふぅ……」
お風呂に入って今日一日の疲労をしっかり回復させた。
明日は早朝に出発だ。それでも隣街に到着できるかギリギリだけど、無理なら街道の途中に宿場町もあるし。
急ぐ旅ってわけでもないから、のんびり行こう。
「この宿も最後になるし、エチカといっしょにワインを飲もうかな」
キャビネットからワインを取り出そうと立ち上がったタイミングで、ちょうど扉がノックされた。
「はいはい、どちらさま?」
「スラッド様、夜分遅くに申し訳ありません」
宿のスタッフさんだ。
「いえいえ。どうかしましたか?」
「ロビーに、お会いしたいという冒険者の方がいらしてます」
「誰です?」
「お名前までは。『義賊』と言えばわかるとおっしゃってましたが」
「へっ? なんで彼女が……わかりました、すぐ行きます」
念のために服に着替えてからロビーに向かうと。
「やっほ~」
ソファの上で寝っ転がっている『義賊』が手を振ってきた。
「こんばんは、シーチャ。いったいどうしたの?」
シーチャは勇者パーティの『義賊』。
見た目はヘラヘラとした笑みを浮かべている少女。
くすんだ金色の髪は仕事の邪魔にならないよう短く切りそろえられている。
ティンクっていう小人種族だから子供みたいに見えるけど、こう見えても大人の女性だ。
「どうしてここがわかった~、とか。そういうのはないの?」
「んーん。君なら俺がどこにいてもすぐ調べられるだろうし」
「あはは。お褒めに与り光栄だね~。ここに来たのは君が恋しくなったからさ」
「そうなんだね。本当のところは?」
「そこはもうちょっと乗ってよ~」
いつもの軽口をスルーしたら、シーチャは不服そうに唇をすぼめた。
「実は勇者パーティを抜けてきたんだ~」
「え……えええええっ!? なんでさ!?」
予想だにしない答えだった。
『聖女』と『魔女』のふたりはいろいろ愚痴ってたからわかるけど、シーチャはこれといって不満を言ってなかったのに。
「それはもちろん、君がパーティを抜けたからだよ」
シーチャが呆れたように首を横に振って、当たり前のように言った。
「俺が?」
「それはそうでしょ~。ボクが気づかないとでも思った? 自分の調子を毎朝欠かさずチェックしてる、このボクがさ」
いや、それは知らなかったけど。
「勇者パーティに加入してから、ずっと調子が良かった。罠解除も鍵開けも聞き耳も。全部が全部うまくいくようになった。だけど、幸運にしてはあまりにも長く続きすぎる。だから、原因をいろいろ調べたんだよね」
シーチャがニヤリと笑いながら核心を突いてきた。
「隠すんだったら、せめて偽名を使ったら? ねぇ? SSSランク冒険者のスラッド・マエスティさん」
……そうか、やっぱりシーチャにはバレていたんだ。
俺の事情を察して黙ってくれていたんだね。
「いつもどおりスラッドでいいよ」
「いや、そこは『どうしてそれを!?』みたいなリアクションを期待したんだけど~……」
シーチャが拗ねた顔をしながら肩をすくめる。
「まあいいや。スラッドらしいし」
「もう俺の事情は全部バレてるってことでいいのかな?」
シーチャがこくりと頷く。
うーん、まあ全部じゃなくても肯定するよね、シーチャなら。
俺なんかが腹芸で勝てる相手じゃない。
「つまり、シーチャは俺の全自動スキル目当てで俺のところに来たってこと?」
「そーゆーこと。何より、SSSランクと同じパーティに入れればAランクのボクもいろいろと便宜をはかってもらえるようになるしね~。仕事がやりやすくなる」
なるほどー。
「わかった。そういうことなら俺はシーチャを歓迎するよ」
「いいの? 仲間に相談しなくて」
「エチカのことも知ってるんだね。うん、たぶん大丈夫じゃない?」
シーチャが抜けるとなると勇者パーティがかなり厳しくなるだろうけど、彼らだって一人前の冒険者なんだし。
さすがのアレスも新しい仲間を補充するだろう。
「で、さ。ボクに聞いておきたいことある~?」
ん、シーチャがそういうことを言うってことは……。
「俺が耳にしておいたほうがいい話があるんだね。でも、持ち合わせはあんまりないよ」
いつもみたく情報料を要求されるのかと思ったけど、シーチャは首を横に振った。
「それはパーティに入れてくれる分で前払いが済んでるから」
「じゃあ、俺が聞くべきことを教えて」
「その聞き方はずるい気もするけどね~」
シーチャはたっぷりともったいをつけてから、こう言った。
「このままだと勇者パーティは近いうちに壊滅するよ」




