19.あたしがついていくのは構わないのよね?
「おいしい~っ! 人間の街の食事ってこんなにおいしいの!?」
朝帰りで宿に戻ると、エチカがロビーの食堂で朝食を食べていた。
ちょっと心配だったけど、宿の人も把握してくれてるから問題なかったみたい。
「あっ、おはようスラッド! どこに行ってたの?」
どうやら俺が先に起きて出かけていたと思ってるようだ。
「おはようエチカ。ちょっと朝の散歩にね」
「へ~。ねえねえ、そんなことよりご飯がものすごくおいしいのよ! それに、ちゃんとエルフ用に野菜主体のメニューなの。人間の街ってすごいのね。なんでもあるわ!」
「そうなんだ。よかったねぇ」
あまりにも幸せそうなエチカにほっこりしちゃう。
だけど、これが普通だと思われちゃうと、それはそれでまずい気がするんだよね。
ちゃんと言っておかないと。
「でも、この宿はものすごくいい宿だから、本当だったらすごく高いと思うよ。普通に泊まるのは無理だから、当たり前だと思わない方がいいんじゃないかな」
「ん? でもスラッドがいれば特典で無料になるんでしょう? だったら何も問題はないのだわ!」
「でも、ほら。冒険者でいるのも俺が家に帰るまでの予定だから」
「えっ、そうなの?」
あれ、言ってなかったっけ。
「実はいろいろあって無一文も同然なんだ。だから路銀を稼ぐために冒険者を再開したんだよ。だから家に着いたらまた引退するつもりなんだ」
「ふ~ん……」
エチカと会話していると、なんと頼んでないのに俺の分の朝食まで運ばれてきた。
俺のは人間用だからか肉が多めだ。
席について両手を合わせてから「いただきます」と感謝を捧げる。
メインディッシュは鴨肉のソテーかな。
うわっ、このソースからはすごくいい匂いがする……いったい何を使ってるんだろう?
うん、ものすごくおいしい! やわらかくて、舌の上でとろけてく。
これは癖になりそうだ……。
「ねえ、スラッド」
顔を上げると、エチカが真剣な顔で俺を見つめていた。
食が進んでない。どうやら何か考え事をしていたようだ。
「その旅って、あたしがついていくのは構わないのよね?」
「え? うん、そうだね。エチカがいいっていうなら」
「じゃあ、やっぱり問題ないのだわ!」
にぱーっと笑って食事を再開するエチカ。
この子は本当に幸せそうに食べるなぁ。
「まあ、本当は街を出るときは同じ方向に行く冒険者のパーティに加えてもらうつもりだったんだけど……」
「そんな必要はないのだわ! あたしがついていくもの!」
そっかぁ。
ついてきてくれるっていうなら、ちょっといい保存食を買っておこうかな。
……いや、ちょっと待って。
ミティエさんの言ってた「結婚」というキーワードが頭をよぎったぞ。
ひょっとして、エチカは俺の旅に同行して……家に到着したら一緒に住もうとか言い出すんじゃなかろうか。
まさか、さすがにそれはない……よね?
「ん? スラッド、あたしの顔に何かついてる?」
「ううん、なんでもないよ」
さすがに本人には聞けないし。
俺の考えすぎだったら恥ずかしい。
まだ会って一日なんだし、きっとミティエさんの考えすぎだよね。




