2.困ったときはお互い様です
次の日の朝。
深夜に無理を言ったのに快く泊めてくれた女将さんにお礼を伝えた後、街中に繰り出した。
「家に帰るにしても路銀がないし、仕事しなくちゃなあ……」
幸いなことに、この街には冒険者ギルドがある。
元冒険者の俺としては大助かりだ。
ちなみに冒険者はモンスター退治や隊商護衛、薬草や貴重な素材の採集などを生業とする何でも屋だ。
「ん、あれだ」
ここの冒険者ギルド支部はよくある酒場併設型だった。
なんでよくあるかというと、仕事終わりの一杯をすぐに楽しみたい冒険者が多いから……らしい。
特にドワーフの冒険者は酒好きが多いので、酒場併設型ギルドを利用する。
逆にエルフの冒険者は酒臭くなるのを嫌って、酒場併設型じゃない冒険者ギルドに出入りするのだとか。
まあ、昔の仲間の受け売りなんだけど。
「あいたたたた……」
ギルドに入ろうとしたところで、道を歩いていたお婆さんが苦しそうに身を屈めた。
「ちょっと、大丈夫ですか?」
「ああ、すまんねえ。この歳になると腰が……」
声をかけると、辛いだろうにお婆さんは笑って立ち上がろうとする。
すごく辛そうだ。
「お助けします。さすがに放っておけないので」
「申し訳ないねぇ……」
体を支えてあげると、苦しそうだったお婆さんの顔色がよくなった。
心なしか姿勢も伸びた気がする。
「おや、なんだか随分と体が軽くなった気がするねぇ」
「それはよかったです」
お婆さんを助けたことで、俺の《全自動支援》スキルが勝手に発動したのだろう。
スキルの効果でお婆さんの身体能力が一時的に向上した。だから、体を支える筋肉が不調箇所を補ったんだと思う。
全自動と名のつくとおり、《全自動支援》は俺の意志で制御できない。
だけど、『俺が助けたい相手』にはほぼ確実に発動することがわかっている。
実を言うと、このスキルで勇者パーティをこっそり支援するのが俺に課せられた役目だった。
さまざまな事情があって、勇者たちには秘密にしていたんだけど。
冒険者パーティの場合、《全自動支援》は俺の仲間に対して効果を発揮し続ける。
だけど俺が勇者パーティを抜けたから、今頃はもう支援が切れているはずだ。
「ああ、娘の家はもうすぐだからね。ここまででいいよ。ありがとう優しい人」
っと、考え事をしてたら目的地に着いたみたいだ。
「どういたしまして。困ったときはお互い様ですから」
情けは人のためならず。
欲しがるだけの者のところに人は集まらないともいうし。
なにより人助けは純粋に気分がいい。
《全自動支援》はそんなに凄いスキルでもないし自分を対象にできないけど、助けたい人を助けられる。
だから、俺はこのスキルをとても気に入っていた。
「ああ、そういえば。アンタ名前はなんていうんだい?」
「スラッドといいます。スラッド・マエスティ」
俺が名乗ると、お婆さんは朗らかに笑った。
「そうかいそうかい。よかったらお茶でも飲んでおゆき」
「いえ、そんな。悪いですよ」
「あたしが作った水蜜のお菓子もあるよ」
「お菓子!?」
どうしよう。
甘いものは大好きだけど、勇者パーティでは自分のお金がなかったから、ほとんど食べれなかったし……。
久しぶりのスイーツ……!
「いっぱい作りすぎちゃって。食べてもらえると助かるんだけどねぇ」
「そ、そういうことでしたら……」
結局俺は、お婆さんの厚意に甘えることにした。
やっぱり、いいことをするといいことがあるもんだなぁ。




