15.これで勝ち確!
「まさかゴブリンハグがいるだなんて……!」
基本的にゴブリンのメスはオスの奴隷として扱われている。
だけど、メスがシャーマンと同じ変異を起こしてゴブリンハグになった場合のみ、その上下関係が覆る。
何故なら、ゴブリンハグはシャーマンよりもはるかに強力な個体だからだ。
ゴブリンハグはシャーマンと同じく呪術師と同じスキルを使える。
呪術師の力の本質は『恨み』だ。
胸に懐く憎悪が大きければ大きいほど、その力を増す。
そして、オスに虐げられてきたメスの『恨み』は普通のシャーマンの比じゃない!
「ノームさん、ホブは任せた!」
タイミングを見計らって移動をやめ、ノームさんを先行させる。
ほどなくノームさんとホブゴブリン二匹の近接戦闘が始まった。
予定通り物理攻撃に強いノームさんはホブゴブリンの攻撃に耐えてくれている。
「ハグが【爆裂火球】使う前に!」
ゴブリンハグは、普通のゴブリンシャーマンには使えない広範囲魔法【爆裂火球】を習得している。
魔法職の定石どおりに《魔力誘導》のクラススキルを覚えていた場合、ホブゴブリンを巻き込むことなく俺とノームだけを爆撃できるはずだ。
俺とノームさんが同時攻撃される分にはまったく問題ない。
最悪なのは、ゴブリンハグが俺たちじゃなくてエチカを狙うこと。
だから俺は――
「こっちだ!」
その辺に落ちていた小石を拾って、呪文の詠唱に入ったゴブリンハグの目を狙って投げた。
「ギャッ!!」
狙いは少し外れて額に命中。
与えたダメージはほんの少しだけど、流れた血を指で掬いとったゴブリンハグは憎々しげにこちらを睨んできた。
俺がやったのは単なる投石じゃなくて、コモンスキルの《挑発》を使ったヘイトコントロールだ。
《挑発》はダメージを与えた対象に次の行動で自分を攻撃させるスキル。
これで少なくとも最初の一発目の魔法は俺に来る。
そして俺が攻撃対象になることで《全自動弱体化》が発動条件を満たした。
この瞬間からゴブリンハグのすべての攻撃能力はゼロに等しくなる。
案の定、俺に向かって放たれた【爆裂火球】は俺が腕を振っただけで爆発することなくあっさり掻き消えた。
「ギッ!?」
「驚いた?」
驚愕に目を剥くゴブリンハグを、敢えて小馬鹿にするように笑い飛ばす。
この時点だとゴブリンハグに能力低下の自覚はない。
だから彼女の目には俺がとんでもない強敵に映っているはずだ。
この間にホブゴブリンの片割れがノームさんのパンチと、エチカの矢を受けて倒れる。
ホブゴブリンの反撃もノームさんがあっさり弾いた。
「これで勝ち確!」
残りのホブゴブリンをノームさんに任せる。
俺は倒れたホブゴブリンを飛び越えて、ゴブリンハグに駆け寄って接近戦に持ち込んだ。
「ギギッ!」
ゴブリンハグが咄嗟に右手の爪を振るってきた。
《全自動弱体化》の効果を受けているので、あくびが出るくらい遅い。
その手首を左手でたやすく掴み、思いっきり握り締めた。




