88.言っていいことと悪いことがあるのだわ
明日またギルドに集まろうという話をしてから、その日は解散になった。
せっかくの祝賀会だったのに。
ヴァイスのせいでお酒がまずくなってしまったし、しょうがないか。
エチカだけはべろんべろんに酔っ払っていたので、俺が宿まで送り届けることになった。
シーチャに「送り狼になってもいいんだよ~?」なんてからかわれたけど、それこそまさかだよ。
いつもどおりSランク特典の宿に、俺とエチカの個室を取るつもりだ。
「ふぇぇ~、スラッドォ~、あらし強くなるからぁ~~」
「ちょっとエチカ! しっかりして!」
今のエチカは体を支えてあげないと、まともに歩けない。
しかも、いろいろと柔らかい部分が押し当てられてくるので、理性をフル動員しなければならなかった。
ゾンビ騒ぎのせいで途中の街による暇もなかったし、おかげで二週間ほどご無沙汰だ。
俺もお酒が入ってるから、ちょっとした間違いが起きないとも限らない。
「とはいえ、狭い通りをショートカットしようとするとチンピラに絡まれるだろうしなぁ……」
エチカがこんな状態だし、できればリスクを冒したくない。
なにより俺が我慢すれば済むことだ!
そう思っていたのに……。
「へっへっへ、兄ちゃん。いい女連れてるじゃねえか」
「俺たちが運ぶの手伝ってやるよ」
「なんなら、ベッドの中でもサービスしてやるぜ。ぎゃはは!」
ガラの悪そうな三人組が俺たちを取り囲んできた。
まさか、こんな表通りでも絡まれるだなんて。
夜遅いから人通りは少なくなってるけど、多少は人目だってあるのに。
「結構です! 皆さんのお手を煩わせるまでもありません!」
凄んでみたものの、まるで効果なし。
どうしよう。《挑発》して《全自動弱体化》をかける手もあるけど、下手すると相手が死んじゃうし……。
「遠慮するなってぇ」
「兄ちゃんに用はないからよぉ」
「そんな女は重荷だろ~? 軽くしてやるってぇ」
「重荷……ですって?」
チンピラのひとりが漏らした言葉を聞き咎めたエチカが、ピクリと反応した。
次の瞬間、その目がくわっと見開かれる。
「女の子に向かって! 言っていいことと悪いことがあるのだわぁ!」
「「「ぎゃわあああああああっ!!!」」」」
一瞬だけ巨大ノームさんが出現して、ぺぺぺいっとチンピラたちを投げ飛ばしてしまった。
チンピラたちは、その辺にゴミ溜めに体をめり込ませて動かなくなる。どうやら気絶しているようだけど……。
「れへへ~……あらし、ちゃんと役に立つのだわ~~…………」
「そ、そうだね。おかげで酔いが覚めたよ……」
その後、性欲に悩まされなくなった俺は何事もなくエチカを宿に送り届けたのだった。
◇ ◇ ◇
「おい、起きろ」
「いててて……はっ、ヴァイスさん!」
エチカのノームに吹っ飛ばされたチンピラたちを叩き起こしたのは、ヴァイスだった。
土下座するチンピラたちを不機嫌そうに見下ろしている。
「すいません! 俺たち、失敗しちまって……」
「それはいい。もともとうまくいくとは思っていなかったからな。確かに予想した展開とは少し違ったが……」
言わずもがな、チンピラたちをスラッドたちにけしかけたのはヴァイスである。
クランメンバーの末端冒険者を使って、噂に聞いた《全自動弱体化》の効果を自分の目で確かめようとしたのだ。
彼らにはスラッドの正体は伝えずに「女エルフをさらえ」としか命令していない。
しかし、足手まといとばかり思っていた女エルフの精霊がチンピラたちを撃退してしまった。
「お前、確か精霊使いだったよな」
ヴァイスがチンピラのひとりを睨みつけた。
「え? あ、はい!」
「あの女エルフは、つい昨日までお前たちと同じEランク冒険者だったと聞いている。お前にアレと同じ精霊を喚べるか?」
スラッドの前では彼のパーティメンバーを軽視しているかのようにふるまったヴァイスだが、それはすべて演技だ。
元勇者パーティのメンバーがそのままパーティになったという話は事前に調べてある。
義賊シーチャ、聖女ディシア、魔女レメリ。いずれも油断ならない実力者であると見ている。
ただ一人、エチカを除いて。
「そ、そんな、無理ですよ! ほんの一瞬だけでしたが、あのノームはとんでもない大きさでした! 俺の魔力を全部費やしても制御できるかどうか……」
「ふむ……冒険者になって日が浅いだけの実力者ということか? 人質に使うという手はやめておいた方が良さそうか……」
スラッドが公の場で披露したユニークスキルは《全自動弱体化》のみ。
スラッドのスキルは旧大陸では有名だが、ヴァイスは新大陸でだけ活動している野心溢れる冒険者だ。
だから彼は《全自動支援》の存在をまだ知らない。
「まあいい。まだ手はいくらでもあるからな。SSSランク冒険者……必ず手に入れてやるぞ」




