9.これで問題は全部解決なのだわ!
洞窟付近にはゴブリンの死体以外これといって何もなかった。
生活ゴミとかゴブリンの糞が転がっているぐらい。
「ううっ、すっごく臭い……」
エチカがきつそうな顔で鼻を摘まんでいる。
「冒険者ならよくあることだから、慣れた方がいいよ。お金があれば臭い消しポーションとか買えたんだけど」
「報酬をもらったら、すぐに買うのだわ」
ゴブリン一匹につき討伐報酬が50ゴールド。
臭い消しポーションは10ゴールドだから1匹倒せば5個買える。悪い買い物でもない。
あ、そうそう。討伐報酬で思い出した。
「ごめん、ちょっと短剣を借りてもいい?」
「いいけど、何に使うの?」
エチカから短剣を受け取った俺は、倒れているゴブリンの右耳を切り取った。
「ギャーッ! スラッド、怖い!? 怖いのだわ!!」
「落ち着いて。報酬部位を採取してるだけだから」
言いながら他の二匹の右耳もさくさくと切る。
腰から下げた袋に入れながら、怯えるエチカに向き直った。
「モンスターはいろんな部位が素材になるし、討伐証明として報酬部位を取ったりするんだ。だから、エチカもできるようになったほうがいいよ」
「うううっ……冒険者って、思ってたのとなんか違う……」
どうやらエチカはもっと華麗な冒険者生活を夢見ていたらしい。
こういう現実を知って故郷に帰るのも、ひとつの選択肢だ。
「それと、さっきみたいに叫んだら中のゴブリンたちに気づかれちゃうよ」
「あっ……」
まあ、俺たちは隠密能力に秀でている『盗賊職』ではないから、どっちみち中に入れば気づかれると思うけど。
「待ち伏せには気をつけようね」
「うん……」
あ、ちょっと落ち込んでる。
「大丈夫だよ。元気出して。中に入ったらノームを呼んで前を歩いてもらおう」
「うん、わかった……」
ミスに落ち込んだり、小さなことで喜んだり。
エルフだから百歳ぐらいだと思ったんだけど、ひょっとしたらエチカはもっと若いのかもしれない。
女性に年齢を聞くのは失礼だけど、エルフの場合はどうなんだろう? わからないから聞かないでおこうかな。
いつの間にか洞窟の入り口あたりに浮いていたシルフさんが、精霊語で何やら言っている。
それを聞いてコクコク頷いていたエチカがパァッと笑顔になった。
「スラッド! 友達が気を利かせて洞窟への音を遮断してくれていたのだわ!」
「へえ、シルフさんはそんなことまでできるんだ」
シルフさんが俺たちの周りをクルクル回る。
精霊語はわからないけど「すごい? すごいでしょ?」とか言ってそう。
「他にシルフさんはどんなことができるの?」
「風や空気に関係することなら、いろんなことができるのだわ。例えば声を風で遠くに届けたりとか、臭いを……あっ! そういえば臭いも消してもらえるのだわ!」
エチカがすぐさま精霊語でシルフさんに話しかける。
するとシルフが人差し指を回しただけで悪臭が消えた。
「これで問題は全部解決なのだわ!」
「でも、シルフさんは風の精霊だから洞窟の中までは来られないでしょ」
「あっ」
エチカの目が点になる。
俺の言葉がわからないはずのシルフさんも、何故だか気まずそうだった。




