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8話



「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」


 大番狂わせの結果に観客は湧き上がる。四対一とはいえ、学年1位のチームの一人を学年最下位が破ったのだ盛り上がらないわけがなかった。


 倒れたトオルはそのままエリオに覆いかぶさっていたがユウコに剥がされ投げ捨てられる。

 エリオの腕は完全にひしゃげており回復不能に見えた。だが、それでも馬乗りで動けない状態から、この程度のダメージに抑えられたのは運が良かったと言えるだろう。


 “|rétablissementレタブリッスモン


 マリアがすぐに駆けつけ、エリオの腕をとり直に回復呪文をかける。遠距離から直接回復呪文に切り替えたことで、回復の効果は50%増しになる。

 エリオの腕がバキバキと音を立てて回復していく。だが、回復に伴う痛みはダメージを受けた時と同じようにあり、彼は顔を歪ませた。


「すみません、痛みも取れれば良いのですが」

 マリアはエリオの腕を優しくさすりながら申し訳なさそうな顔をした。


「いいえ、フランシスさんの回復呪文がなければ耐えきれませんでした、ありがとうございます」

「そんな、わたくしなんか……」

 エリオの感謝の言葉にマリアは顔を赤くしてうつむく。


「でも、見直したっすよ、エリりん。やればできるじゃないっすか」

 ユウコは自分を犠牲にして戦ったエリオを見直し回復した彼に手を差し伸べた。


「トオル!」

 ミツエが倒れたままのトオルに寄り添い、頭を持ち上げバッグから取り出した気つけ薬の蓋を口で抜くと、瓶の口を彼に当て気付け薬を飲ませた。

「ガハッ!」

 目を覚ましたトオルは周囲を見廻し、自分が負けたのを理解した。


「おいトオル、約束通り、お前はクビだ、この面汚しが!」

 栗山・シュウイチは顔を歪ませ口の中で舌を回すと大きく舌打ちをして、その場を去った。

 仲のいいマコトですらトオルを見捨てシュウイチついていく。ナンバーワンチームと偽りの友情を天秤にかければ理があるチームを選ぶのは彼からすれば当然だった。


 ダーティー・ブロスがトオルを見捨てた瞬間、ミツエは彼の頭を投げ捨てた。

「イッテェ、何するでやんすか!」

「は? 喋りかけないで? 一位のチームじゃない、あんたには何の価値もないわ。ったくポーション代、損したわよ」

「は? ちょっと待つでやんすよ! ミツエ!」

 ミツエを追いかけようとするトオルの前にアカツキの三人が立ちはだかり道を塞いだ。


「何でやんすか、邪魔でやんすよ!」

「は? あんた、エリオに返す物があるでしょ」

「そうっすよ! さっさと返すっす!」

「早く返しなさい」

 3人に詰め寄られトオルはタジタジになる。結束した女性の威圧感はヤクザよりも怖いのである。


「くっ、こんな物いらないでやんすよ!」

 そう言うとトオルは短剣を投げ捨ててミツエを追いかけた。


「ちょ! 待ちなさいよ、ちゃんと手渡ししろ、このコバンザメ!」

 しかし、その声は群衆の中に消えたトオルには聞こえなかった。ミリアは短剣を大事そうに拾うと、エリオの前にトコトコと歩み寄り両手で彼に手渡した。


「ありがとう有栖川さん、それに川上さんも、フランシスさんも……」


「何言ってんのエリオは仲間なんだから当然でしょ」

「そうっすよ、それに、なんか今の試合で大剣の感覚が分かったんで逆にラッキーっす」

「わたくしはあの男にもう一発、神の怒りを喰らわせてあげたかったですわね」

 そう言うとアリアは打撃武器に使った聖典に謝るように十字を切った。


 短剣を取り返した“アカツキ”の四人が武闘台から降りると観客の学徒兵(スクラウト)達は大歓声で彼らを迎え入れた。

『勝者には賞賛を敗者には嘲笑を』が学徒兵(スクラウト)のルールなのだ。

 その賞賛にミリアは恥ずかしそうにし、ユウコは歓声に応え、マリアは観客には無関心でエリオに寄り添った。


 チーム“アカツキ”が降りると転移ゲートのリングが立ち上がり、元の状態へと戻り、転移ゲートが機能を取り戻した。

 転移ゲートが作動を始めると観客達の興味はダンジョンに移り、試合の話をしながらも、学徒兵(スクラウト)は散り散りに自分たちの転移ゲートの待合室へ戻った。


 ミリア達も待合室に戻ると装備の再点検を行った。先ほどと違い緊張は無くなっていた。実戦でもなく四人がかりとはいえ、学年1位のチームに在籍していた者を倒したことが自信に繋がったのだ。



「ねえ、エリオ、仮想ダンジョンの作戦もあなたがたててよ」

 ミリアは先ほどの戦いからエリオに作戦を立たせた方がいいと感じたのだ。実際、知識でミリアはエリオに負けている。そのことを鑑みても彼に作戦を立たせたほうが合理的なのだ。

 当然、エリオはそれを快く受け入れ作戦を考えた。


「それじゃ、有栖川さんは魔法の杖に“レイライ“を纏わせて杖術で近接戦闘、川上さんは有栖川さんを守るように連携しながら攻撃してください」

 エリオが提示した作戦にユウコが異を唱える、自分が中心に戦った方がいいのでは無いかと。

 エリオはその言葉に首を横に振って答える。

 なぜなら“レイライ”は学園のどんな強者よりも攻撃力があり、仮想ダンジョンや下位ダンジョンの魔物なら一撃で消し飛ぶと言う。


「それに、川上さんの動きについていける者がアカツキにはいないです、川上さんが前に出過ぎた時に助ける者がいないと終わります」

 だからマリアの動きにユウコが合わせる方が安全マージンが取れるうえに殲滅速度も上がる。

 そして一番重要なユウコがミリアを守りた言う目標も叶えることができるのだと説明した。

 その説明にユウコは満足した。殲滅速度云々よりもミリアを守れる、この言葉だけでエリオの作戦を実行する価値があるのだ。


 つまりW(ダブル)攻撃戦士(アタッカー)をエリオは提案しているのだ。

 防衛戦士(タンク)がいないチームでは攻撃こそ最大の防御であり、W(ダブル)攻撃戦士(アタッカー)はまるでバンドでのツインギターの構成のように素晴らしいハモリを見せ自分の力を何倍にも引き上げてくれる。


 もちろん二人の気持ちが合えばの話だが、ミリアとユウコの信頼関係は友達と言うよりも親友を超えるレベルで結びついている。

 そのことは少し話すだけでも分かった。だからこそエリオは二人をツートップの攻撃戦士(アタッカー)にしたのだ。


 試合から一時間三十分程の待ち時間を経てスピーカーから呼び出しの声が響く。

「3番ゲート、5番、チーム“アカツキ”ダンジョンの準備ができましたゲートまでお越しください」


「やっと順番来たわね、頑張りましょう」

 ミリアはそういうと右手を前に差し出した。みんなも早く手を乗せろとドヤ顔をしている。

 みんなは笑いながら手を乗せると彼女は大きく息を吸い込む。

「アカツキィィィィィィレディィィィィィゴォーーーー!!!」

「「「お? お~」」」

 そこはファイオーじゃないのかとみんな頭にはてなマークを作りながら掛け声を上げ腕を上空へ上げて拳を握った。

「なんか掛け声がイマイチだけど頑張りましょう」

 ミリアは微妙な掛け声を出すみんなに、これから本番だというのに気が抜けてるわねと自分のせいだとは気付かずに、みんなの気合を入れ直す、特にエリオは背中を叩かれ苦笑いをした。


「5番チーム“アカツキ“早くしないか、順番を飛ばすぞ!」

 ゲート作業の係員が、いつまでも転移ゲートにこないアカツキに苛立ち声を荒げる。全校生徒2345人にも及ぶ生徒たちをダンジョンに送る作業は過酷だ。ゲートの数は全部で10台あるが、今日に限って作業員が病欠で二人休んでしまい係員たちはてんてこ舞いだったのだ。

 しかもD(ディメンション)B(バトル)のせいで仕事がズレたのだランクが関係ない係員達には良い迷惑なのだ。


「すみません、すぐに行きます!」

 怒られたミリア達はすぐさま5番ゲートに向かった。睨む係員にペコリと頭を下げる。


「お前達、こっちは忙しいんだ、今回は初めてだから許してやるが、次回から呼んですぐ来なければ順番を飛ばすからな」

 その言葉に反発しようとするユウコを手で制しミリアは頭を下げた。

 下手に反抗すれば本当に順番を抜かされる。転移ゲートの使用決定権は係員にあるからだ。

 係員は上位勇騎士(ブレイズナー)の天下り先で、引退者などで構成されている。

 引退者は怪我などで戦えなくなった物達が多く、まだ年若い未来ある学徒兵(スクラウト)を見ると戦えない自分がもどかしくイライラするのだ。

 当然、そんな係員を怒らせると嫌がらせを受けたりする。だから学徒兵(スクラウト)は係員に逆らえないのだ。


「まあ良い、早くゲートに乗れ」

 態度の悪い係員に頭にきながらも、彼のいうことに従いミリア達は転移ゲートの入り口にある長方形の機械に生徒手帳を置く。

 生徒手帳にはIDがあり、データーを係員に送り申請されたデーターと照合するのだ。

「オーダー確認、仮想ダンジョン:レベル1 参加チーム“アカツキ“4名、間違いないな?」

「間違いないです」

「よしゲート中央の魔法円に乗れ」

 係員に言われるがまま転移ゲートの上の魔法円にミリア達は乗った。

 世界の殻を破り異世界のダンジョンへと送る転移ゲートは空間に穴を開けるために大出力のエネルギーが転移ゲートへと送り込まれた。

 転移リングが青白く光だし“ブォンブォン“と(うな)りをあげはじめた。


「よし、コネクト オン」

 結界が四人を包み込むように発生して球体を作る。それを確認すると係員は次のゲートへと向かった。

 結界が発生してからゲートが繋がるまでにはタイムラグがある。時間にすれば30秒ほどだが意外に長いなとミリアは感じた。

 ふと、周囲に目をやると、転移ゲートのコントローラーには係員の代わりに山下・トオルが不敵な笑みを浮かべて立っていた。


『死んじまえよ』


 その言葉の意味を理解する前に四人はダンジョンへと送られたのだった。


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