7話
「「「トオル! トオル! トオル!」」」
観客である学徒兵のほとんどの者達が、1年生1位のチーム“ダーティー・ブロス”のメンバーであるトオルの名を呼ぶ。
彼はいじめっ子で虎の威を借る狐の威を借る鼬鼠だが、学年一位のチームのメンバーと言うのはそれだけでも人気があるのだ。
しかもトオルはレベル15である。1年生2345人でレベル10越えは12人しかいない、その中の一人なのだから人気がない訳がなかった。
逆に未だにレベル1のアカツキは学徒兵達からすると、誰だお前達は状態なのである。
トオルは声援に答え両手をあげる。その姿を見てミツエはうっとりとした。
自分の彼氏である男が学園中から名前を呼ばれているのが嬉しいのである。もちろんブランド価値的な意味なのだが。
「山下くん、短剣返してよ」
短剣を返さないトオルにエリオは再び返却を求めるが彼は顔を歪ませ見下すようにエリオを見た。
「あ? これは賞品でやんすよ、お前らなんぞと無償でやれるわけがないでやんしょ」
「そんな……、返してよ!」
「ガタガタうるさいでやんすよ、返して欲しければ勝てば良いでやんしょ」
トオルはそう言うと笑いながら部屋を出て観客に応えるために待合室の外に出た。
エリオは追いかけたが、人波に飲まれ消えたトオルを追いかけることができずに彼は焦った。
「まあ良いじゃないエリオ、勝って取り返しましょう」
「そうっすよ、あいつには貸しがあるしボコボコにしてやるっす!」
ユウコは人混みに消えたトオルに向かいシャドーボクシングをするとフンスと鼻の穴をピクピクとさせた。
ユウコはリーダーであるミリアにどうやって倒すのかを聞く。
ミリアの作戦は単純だ。一生懸命がんばるだ。
「そうっすね、一撃ガツンと喰らわせてやるっすよ!」
「回復は任せてくださいまし、筋肉ゴリラのユウコさんも一瞬で直して見せますわよ」
ユウコはマリアを後ろから羽交い締めにするとよろしく頼むっすよと顔を引きつらせて笑顔を作った。
「良し、頑張ってエリオの短剣取り戻しましょう」
「「おー!!」」
ユウコはマリアの手を背後から上げて一緒に掛け声をあげたが、エリオは待ったをかける。
普通に考えて一生懸命頑張るなんてのは作戦じゃない無謀だ。
何より自分のせいで彼女達に負けを味合わせるのは今のエリオには許容できることではなかった。
「ごめん待って有栖川さん」
「何、エリオ」
「作戦は僕に考えさせて欲しい」
「できるの?」
「うん、大丈夫、僕に考えがあるんだ」
そう言うとエリオはミリアに親指を立てニヤリと笑った。
「「「「オオオオオオオオオ!!」」」」
観客が歓声をあげる、逃げるだろうと思っていた“アカツキ“が武闘台に現れたからだ。
「逃げれば良いものを、良い根性でやんすね」
すでに武闘台に上がっているトオルが、遅れてやってきた“アカツキ”を見下すように見た。
それに反抗するようにエリオは彼に指を差す。
「山下くん、短剣は返してもらうからね」
「エリオのくせに生意気言うじゃないでやんすか。身の程教えてやるでやんすよ」
エリオの挑発に乗りトオルは眉毛をピクピクとさせ怒りをあらわにする。この挑発はエリオの作戦だった。
トオルを挑発することにより自分を狙わせるためのものだ。スキルのないエリオは心理戦でデコイと同じ効果を出したのだ。
『対戦者入場確認、カウントダウン開始します』
“アカツキ“が武闘台に乗ると合成音声で10カウントを始った。
トオルはエリオをじっと睨み、カウントが0になった瞬間飛び出すつもりだった。
『――5』
『4』
『3』
『2』
『1』
『試合開始』
開始の合図とともにエリオが飛び出した。
その動きにトオルは虚をつかれた。
彼はいじめられっ子のエリオは3人の後ろに隠れてるだけだと思っていたのだ。だが実際は自分よりも早く試合開始の合図に反応しトオルに飛びかかったのだ。
だが、武器を持っていないエリオが何をしてもトオルにダメージを喰らわすことはできない。
彼はそう思って油断してしまった。
エリオはトオルから見えないように武器を持っていたのだ。
その武器は短槍だった。
近づくエリオにトオルの長剣が襲いかかる。だがそれよりも早くエリオの短槍がトオルのアゴをかすめる。
油断していたとはいえ、レベル0の動きがレベル15に当たるわけがなかった。
そして長剣はエリオの肩に当たり彼のHPを削り取る。
レベル0のHPなど一撃で削れるはずだった。
だが、トオルは当たったはずの剣にまったく手応えが無いことに驚いた。まるで水に剣を叩きつけるような感触だったのだ。
それにエリオ自体もまだピンピンしていた。
トオルは怒り更に剣を振り上げ二撃目を喰らわせようとしたが、背中に大きな衝撃を受けた。
ユウコが大剣を振り下ろしトオルにダメージを与えたのだ。
そのダメージは今潜っているダンジョンの魔物の一撃と遜色がなかった。まずいと思ったトオルはユウコの方へ向き直るが。次の一撃が彼を襲った。
それはミリアの杖だった。ただの魔法使いの一撃がトオルの膝を穿ち、跪かせたのだ。
なぜ魔法使いの杖の一撃が戦士でトオルに効くのか。それはミリアが使えない魔法を捨てて武闘家の杖術を練習していたからだった。
10歳の時に自分の魔法が使えないと分かってから杖術の勉強をし鍛えた。中等部からは周りがダンジョンに潜りレベルアップに勤しむ中、ミリアとユウコは実戦形式で対人練習しスキル外の技を研鑽した。
そして、その3年間は無駄ではなかった。
赤い閃光、それはミリアを揶揄する言葉だが、彼女の杖術は武闘家の杖術に匹敵するほど技量で、その一撃はまさに閃光と言うあだ名にふさわしい動きだった。
つまり対人戦で、この二人の技量に並ぶものは1年生にはほぼいないのだ。
ミリアが跪かせたトオルに更にエリオが攻撃を加える。その攻撃にトオルが対処をすればユウコがトオルを背後から攻撃をする。
トオルを囲んだアカツキの3人の誰かに対処しようとすれば必ず誰かに背中を取られてしまう。
一人一人の力は大したことがなくても多勢に無勢、守りに特化している防衛戦士であるトオルには、この状態を打破する攻撃方法がなかった。
防衛戦士は自分が守っている間に仲間が敵を攻撃して撃破する職業だ。
完全な守り職である。
トオルは自分の力量を見誤った。チームで魔物としか戦ったことがない彼には対人戦で囲まれたときの対処法を持っていないし想定すらしてなかったのだ。
そして、守りの職業の攻撃力はそれほど高く無い。
だが、守りの職業とは言え、レベル1の魔法職を倒せないほど弱くは無いのだが、最初のエリオへの攻撃がほとんど無効化されていたのがトオルの心を折って攻撃することを躊躇させていた。
対処法もなく、されるがままに攻撃されるトオルのHPは半分を切った。
「おいトオル! 負けたらお前はダーティー・ブロスから追い出すからな!」
その言葉をかけたのはダーティー・ブロスのリーダー栗山・シュウイチだった。周りには小沢・マコトと最後のメンバー、松本・キヨタカもいた。
リーダーであるシュウイチはすでにレベル20に達している。中等部でレベル20は異例で優秀な勇騎士として未来を確約されていた。
エリート勇騎士としての未来が待っているシュウイチに捨てられたら、トオルの勇騎士としての未来はない。
トオルは焦った。
捨てられたくない、負けられないと。
その思いが、ただ一つの脱出方法を生み出した。
トオルは盾を捨てエリオにタックルを喰らわせた。当然エリオでは避けることができなく、倒れたエリオにトオルは馬乗りになった。
「死ぬでやんすよ!」
トオルは剣をエリオにめがけ振り下ろす。エリオは倒された時に短槍を離してしまった。
トオルの振り下ろす剣をエリオは素手で防御するが、剣を腕で裁くのは無理があり、骨が折れる鈍い音がした。
何度も何度も振り下ろされる剣を腕で捌くうちに、エリオの腕はひしゃげ指一本動かせない状態になっていた。
“|rétablissement“
マリアはすでに聖典の第十六節一章 “天使の慈愛“ を朗読し終えており、いつでも回復呪文を使える状態にしていた。
彼女の回復呪文はジャポニカの巫女が使う回復呪文とは違う系統の回復呪文で、神官系の回復呪文は神聖術と言われている。
マリアの回復呪文でエリオの腕が修復される。だがトオルは長剣で殴り付けるのをやめない。
エリオだけは絶対に倒したいのだ。
ミリアとユウコはエリオだけを攻撃するトオルに攻撃を加えるが、先ほどよりもダメージが通らなくなっていた。
それは山下・トオルの第二のスキル、『キャスト・シールド』でシールドを捨てると、防御力が捨てたシールドの防御力×3が自分に上乗せされると言うスキルだ。
当然、魔法使いであるミリアの攻撃はほぼ無効化され、現在はユウコだけが彼のHPを削っていた。
ガンガンと鎧と大剣がぶつかるとが響き渡る。高価な鎧に守られているトオルにはユウコの大剣からのダメージによる痛みはない。
それ故に彼の攻撃が止むことはなかった。
マリアは回復呪文をエリオにかけ続ける。だが治る度にひしゃげる腕の痛みは想像を絶するものだった。
エリオは今にも気絶しそうな痛みに耐えていたのだ。
普通なら気絶をしてしまう痛みに、なぜいじめられっ子のエリオが耐えられるのか。
それは仲間の為だった。自分を信じてくれたアカツキのみんなの為に。
エリオには永遠とも思える時間がすぎた。
だが、その時は来た。止まる事なくエリオに攻撃するトオルに腹を立てたマリアが背中を見せているトオルの首に聖典の角で思いっきり殴りつけた。
ちょうど身体を守るバリアとも言うべきHPは剥がれ落ち、守ってくれる物が無くなったトオルの体を凶器とも言えるマリアの聖典が当たったのだ、トオルは衝撃で脳震盪を起こし崩れるように倒れ込んだ。
聖典は重い、表紙である装丁には形崩れしないように金属が入れられている。
しかも、マリアは元王族ということもあり、聖典には神の金属オリハルコンが使われており、その重量は15kgに及ぶ。
つまり、神の金属で作られた重量物の聖典はまさに神の一撃なのだ。
『Winner チーム“アカツキ”』




