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4話

 今にもキスをしそうな勢いでマリアの胸と押しつぶされるエリオの顔の間にミリアは腕を挟み入れ、彼女を引き剥がした。

「はいはい、離れて離れて」

「親愛のキスくらいさせてください」

「ここはジャポニカよ、キスは好きな人とだけするものなの、全く、これだからフランシス人は」

 フランシス人はキス魔である。誰彼構わずと言うことはないが友達や家族などによくほっぺにキスをする。

 ただ、このキスは本当の意味でキスではなく互いのほっぺをつけてチュッと音を立てる様な方式である。

 

 当然、邪魔されたマリアはこれだからジャポニカ人は奥手だと世界でバカにされるんですわよと意趣返しをしたが、ミリアはそう言うハレンチなスキンシップは異性間はダメですと言い、彼女はエリオの代わりとばかりにマリアを抱きしめホッペを合わせてキスをした。

「まあ、なんにせよ加護が戻ってよかったね」とミリアはマリアに微笑んだ。

 

 新たな壁ドンで息も絶え絶えのエリオの肩をユウコがポンと叩いてニヤリと笑う。

「それじゃ、次は自分っすね」

「へ? ユウコもアドバイス欲しいの?」

 さっきまでとは打って変わって教えてもらう気が満々なユウコにミリアが意趣返しをする。

「……念の為っすよ」

 ニヤニヤ笑うミリアをよそにユウコは自分の装備をバッグから取り出した。

 それは学園から貸与(たいよ)された標準的な長剣と大盾で、その武器からユウコが防衛戦士(タンク)であると言うことを指し示していた。


「川上さんは、なんで防衛戦士(タンク)をしてるの?」

「やれやれっすね、何でも何も無いっすよ、戦士なら防衛戦士(タンク)っすよ」

 仲間を守りたい……ミリアを守りたい、そんな気持ちからユウコは防衛戦士(タンク)を選んだ。だが、外から見ているエリオから言わせれば、それは間違いだったのだ。


「川上さんに防衛戦士(タンク)は合わないですね」

「なんっすか、それ! 馬鹿にしてるっすか!」

 脅すように前のめりになるユウコにエリオは後ずさる。そんな彼を守るようにマリアが立ちはだかった。

 それを見てミリアがおやと言う表情を見せる。マリアは今まで他人に、同級生に無関心だった、そんな彼女がエリオを身を挺して守ったのだ。

 ミリアはいい傾向だなと思ったが少し複雑な気分だった。

 そんなマリアの珍しい行動にユウコも虚を削がれ大人しくなる。


「それで、なんでユウコが防衛戦士(タンク)不適合なの?」

 ミリアがユウコを自分の後ろに立たせ、なにを言われてもエリオを攻撃しないようにした。

 自分とマリアが変わったならユウコも変わるはずだと信じて。


「ふ、不適合って訳じゃないです。ただ、川上さんの持ってる戦士スキルはスラッシュですよね?」

「そうっすよ、守りも戦いもできる防衛戦士(タンク)っすよ」

 そう言うとユウコは盾と剣を装備するとブンブンと長剣(ブロードソード)を振り回す。

 ミリアはしゃがんで、長剣(ブロードソード)をやり過ごすと彼女のスネを危ないでしょと言う意味を込めて杖で殴った。


「いや……。川上さん防衛戦士(タンク)が最初に持ってるスキルはデコイ(囮り)ですよ、川上さんのスキルはスラッシュなので攻撃戦士(アタッカー)です、すみません」

「なんでそんなこと言うんっすか! 自分はみんなを、ミリりんを守りたいんっすよ!」

 ユウコは防衛戦士(タンク)をやりたいのに、エリオは自分のスキルが防衛戦士(タンク)のものでは無いから攻撃戦士(アタッカー)だと言う。

 それはミリアを守りたい自分を全否定された様なもので、彼女はまたエリオに敵対心をあらわにした。


「やめなさいよユウコ、エリオの言ってることは確かに的を得ているわ。それに攻撃要因が増えるならもってこいじゃない」

「じゃあ誰がミリりんを守るっすか!? エリオ(そいつ)っすか」

「ええと、川上さん、なにも守るのをやめろとは言ってないですよ」

「は? 意味わかんないっすよ」

「大剣に持ち替えて攻撃力を上げれば殲滅速度が上がるので、みんなの危険も減るっす、です……」

 あまり人と喋らないエリオはユウコの口癖が移ってしまい、ハッとして言い直すが時すでに遅しで、真似をされ馬鹿にされてると思ったユウコは今にも襲いかかりそうな目でエリオを睨みつけた。


 そんなミリアを手を出して制すると自分の疑問をエリオに質問した。


「でも、大剣だとダンジョンじゃ取り回しに難があるんじゃない?」

「それは脇道探査する場合ですね。通常のルートはこの教室の幅より大きいですから大剣が邪魔になることはないですよ」

 ダンジョンにはメインルートとサブルートがありほとんどのルートは十分大剣が振れるスペースがある。

 サブルートは攻略を目指さないような生産職や志が低いものたちが潜る場所なので、攻略を目指すなら攻撃力のある武器が良いのである。


「確かに、この教室より幅があるならモンスターに対して大剣はかなり優位よね」

「それに川上さんはレベル1なのに、力はレベル15の山下くんとほぼ互角ですから、その力を利用しないのはもったいないです」


「自分、あいつとそんなに大差ないんっすか?」

「はい、さっきの力比べで川上さんは一瞬押し返しましたよ。それで焦った山下くんが川上さんを蹴ったんです」

「そうなんっすか……」

 ユウコは膝蹴りされた時のことを思い出し確かに一瞬押し返した気がしてウンウンと納得する。


「それで、ユウコはどうするの?」

「……アドバイス受けるっすよ、実際二人はそれで光明が見えたんっすから。自分もやってみるっす」

 ユウコは理路整然と話すエリオをいつの間にか敵視しなくなっていた。レベル15並みの力だと言われ、力を認められたのが嬉しかったのだ、ユウコは良くも悪くも彼女は単純なのだ。


「みんな、エリオは荷物持ちでいいわね?」

「はい、構いませんわ」

「問題ないっすよ、魔物は全部自分が倒すっすから」

 そう言うとユウコはブンブンと大剣を持ってるフリをして腕を振り回す。そんなユウコにミリアは自分も魔物を一撃で倒せる魔法がああるからユウコには負けないわよと杖を掲げてニヤリと笑う。


「言うっすね、ならダンジョンでは討伐数で勝負っすね」

「良いわ、誰がリーダーか思い知らせてあげる」

 二人は冗談まじりでそう言うと、早く力を試したそうにはしゃいでいた。


「でも、三日は長いっすよ」

「まあ、焦らなくてもダンジョンは逃げやしないわよ」

 早く力を試したいユウコをなだめるが、実際焦ってるのはミリアだった。出遅れてるのもあるが、留年してる彼女は実際は2年生なのだ、焦る思いは誰よりも大きいのだ。


「あの、提案なんですけど」

「何、エリオ」

「仮想ダンジョンに入るのはどうでしょう」

「仮想ダンジョンか……」

 仮想ダンジョンとはダンジョンに転移するゲートを使い、今までダンジョンを攻略してきたチームのデーターから術法で偽のダンジョン作成するもので、経験値は入らないが死ぬことはないと言う学徒兵(スクラウト)ように作られた練習用ダンジョンなのだ。


 仮想ダンジョンは完全にダンジョンを模倣する為、攻略するために使う者たちも多いのだ。

 それに仮想ダンジョンなら世界政府の許可はいらないからとエリオは言う。


「確かにいきなり実戦は怖いわよね」

「そうっすね、自分もどのくらい動けるか見てみたいっす!」

「わたくしは模擬戦よりも、もっと神の声を聞いていたいです、加護は戻りましたがノイズがかかっているようで、神の声が聞こえませんので」

 そう言うとマリアは残念そうに聖典を握る。そんな彼女を見てエリオは彼女に神の声を聞いたことがあるのかを聞いた。

 神の声は神官だからと言って聞けるものではない、神が語りかける者は選ばれしものだけなのだ。

「はい、5歳くらいまでは聞こえておりました」

「それはおかしいですね。なら、明日はちゃんとした祭壇を作りますから、一度でも対話したことがあるなら本国といるのと同じ感度で神との対話ができるはずです」

「……本当ですか」

「はい本当ですよ、フランシスさん」

 その言葉に、また抱きつきそうになるマリアをミリアは両手で制した。

 マリアはジャポニカ人はこれだからと両手を上に向けて振る。ミリアはハイハイと彼女をスルーをしてエリオから距離を取らせた。


「なんにせよ、雨降って地固まるの雨が、血の雨じゃなくてよかったわ。これからよろしくねエリオ」

 ミリアは笑顔で手を差し出すとエリオも彼女の手を取り、よろしくお願いしますと頭を下げた。

 二人が手を強く握った瞬間、午後の授業の予鈴が鳴り響いた。

「まずいっす! お昼食べてないっすよ!」

 ユウコは机の上に置いておいた弁当箱を開くと、行儀などお構いなしに口の中に弁当を掻き込んだ。

 その頬はリスのように膨れ上がり租借を開始する。結構な量を一気に頬張ったのを見てみんなは彼女を心配したが、ユウコは親指を立て大丈夫と意思表示をした。

 そんな彼女を見てミリアはユウコは可愛いんだから少しは女の子らしくしたほうがいいわよと言うが口いっぱいに頬張ったユウコはフガがフガがっふっと声にならない声で抗議した。

 ちなみに可愛さより強さっすよと言っているのである。


「なに言ってるかわからないし早く行かないと先生に怒られるよ」

 そう言うとミリアはユウコの腕を掴み教室へと走り出した。

 ユウコはまだ一口しか食べてないと教室に行くのを教室に行くのを拒否したが頭を杖で叩かれて渋々午後の授業へと向かうのだった。

 

「ふがぁ~!」





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