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知らない天井。  作者: 「さ」と「し」
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プロローグ

 僕の瞳に映ったのは――


 *


 四月二日、僕は旅に出た。

 旅に出たのは中学を卒業してすぐの頃だった。

 桜の花びらがアスファルトに舞い落ちるあの季節に、何を思ったのか僕は旅に出た。


 *


 春独特の陽気に包まれて自宅の最寄り駅の改札を通り過ぎる。一人旅という謎の意識により、交通系ICカードではなく切符を買った。

 階段を登り、ホームに足を踏み入れた途端、ホームの端からちょっと強い風が吹き、羽織った緑色のコートがはためく。その風に乗って桜の花びらが軽やかに舞ってゆく。

 だけど、怯むことなく一歩二歩と足を前に進める。

 自分の履く革のブーツのコツコツという音がホームに響く。その瞬間に僕は意味の分からない高揚感と不安感に襲われた。心臓がバクバクと音をたて、体を震わせる。

 だけど二回目の風によってハッと我に返り、白線の手前で足を止めた。

 線路の上には先程の桜の花びらが静かに舞い落ちていた。先程の緊張感とは裏腹に、ぼーっと落ち着いた目で次々と舞い落ちてゆく桜の花びらを眺めていた。

 そのうち、桜はどうしてこんなにも綺麗なのだろうか。どうしてすぐに散ってしまうのだろうか。……と考え込んでいた。

 ふとホームに吊られている電光掲示板を見ると、電車が間もなくやってくるところだった。

 前日の夜に旅に出ることを決意したのだが、とりあえずの行き先は……海。

 そして夜のうちに計画を立て、準備を整えた。左手には小柄なキャリーバッグがあり、肩から腰にかけてバックを掛けていた。

 そう。日帰り旅ではなく、長旅をするつもりなのだ。

 そうなってくるとお金がいるのだけど……何年も旅をできるほどの大金は持ち合わせていない。

 それに、僕には家族も親戚もいない。だから高校へは行かないことにしたのだった。当然、国からの援助は貰えるだろうが、手続きが面倒くさいことや高校へ行っても大して何もしないことから、高校は受験しなかった。

 中学の友達とも別れて、一人で生きることを決意した。

 家に帰るのは何年先になるだろうかと思いながら、お金や宿はどうするかなどといったことも考えた。

 それでも旅に出たかった。何かを追いかけるように無性に旅をしたくなったのだ。

 僕が住んでたのは千葉県の有名な遊園地が近くにある市……の隣の市。

 だから電車の本数は結構多い方。

 まずは東京に出ることにした。

 再びぼーっとしていると駅のアナウンスが鳴り、電車がホームに入ってきた。

 電車の乗車口は僕の目の前でピタリと停止した。軽快なリズムと共にドアが開くと、僕は一旦ドアの横にずれる。誰も降りる人がいなかったのでそのまま乗車した。


 *


 《《あの》》時――

 乗車した《《あの》》瞬間の《《あの》》一歩は今でも覚えている。

 正に、「ドキドキ」という副詞が当てはまるあの感覚。

 あの「ドキドキ」には好奇心・不安感・何かへの期待、などといった様々な意味が含まれている。

 もちろん、僕自身が「ドキドキ」などと言う柄ではないのは百も承知の上だけど。


 まあ、そんなこと今はどうでもいい。


 ――か、金がねぇ……

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