空旅
「はわわわわ……高いのです……!」
「あ、ラエルさん! 暴れたら落ちちゃうかもしれないです!」
「ひいぃ!」
ラエルは、人生で初めての空中旅行を経験していた。
やはり本能的に空というものには恐怖心があるようで、無意識のうちに体が震えてしまっている。
数週間前まで同じ境遇であったリヒトは、ラエルの心が痛いほど分かった。
今リヒトにできることは、何とか恐怖を紛らわせるために、横からサポートをすることだけだ。
「こ、こんな遠くに困ってる人がいるのですか!?」
「あ、あぁ……」
「くっ、何か大事件の匂いがするのです……! これは気合を入れなければならないのですよ……!」
話を誤魔化し続けてきたことによって、ラエルの勘違いはリヒトが制御できなくなるくらいにまで達していた。
実際は、問題が起きているということはなく、そもそも人間ではなく竜人である。
ラエルが真実を目の当たりにした時、どのような反応をするのか分からない。
激怒されるということはないだろうが、最低限の心構えは必要だ。
「三人がかりということは、それなりの仕事量なのですよね? あれ? 魔王軍が人助けってするのでしょうか……?」
「す、するよな? ロゼ?」
「は、はい!」
ラエルに生まれた疑問を、リヒトとロゼは真っ先に潰す。
普通なら余計に怪しく見えるような態度であったが、相手がラエルとなると別だった。
二人の言葉を、そのまま鵜呑みにしてしまっている。
そうなのですねー――と、なぜか納得したような表情だ。
「私、皆さんのことを誤解していたのかもしれないのです。ガブラエル教の教えにも、人は見た目で判断してはいけないというものがありました。本当に申し訳ないのです」
リヒトの心に突き刺さる罪悪感。
少なくとも頭が良いとは言えないラエルが相手であるだけに、子どもを騙してしまったような感覚である。
「……ラエルさん。隠していたんですけど、実は私ヴァンパイアなんです。ガブラエルさんの教えでは、仲良くしてはいけない存在なのでしょうか……?」
「いえ、そんなことはないのです! それに、隠せてないのですよ」
「え!? バレてました!?」
ロゼは、目を大きく見開いて衝撃の真実を受け止めた。
ヴァンパイアでは避けられてしまうかもしれないため、隠していたつもりだったのだろう。
コウモリを堂々と使っている時点で、かなり怪しいラインではあったが、移動のためなら仕方がない。
「でも、仲良くできるのなら良かったです……」
「はい! ガブラエル様は、そんな心の狭い御方ではないのです! これからよろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします!」
竜人の里の目前で、がっしりと二人は固い握手をすることになった。
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