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ロザリオ


「あ、いた」


 逃げ出したラエルの捜索は、わずか数分で解決することになった。

 ディストピアの外に出ることなく、通路で丸くなってブルブルと震えている。

 どうやら、慣れないダンジョンの構造に混乱してしまったらしい。


 他に何をすることもなく、神に対して助けを求めていた。


「うーん……怯えてるみたい。何か落ち着かせてあげられれば良いんだけど……」


「そうじゃ、リヒト。ベルンからロザリオとやらを貰っておったじゃろ? それを渡してみてはどうじゃ?」


「分かった」


 アリアの提案通り、リヒトはロザリオをラエルの前に差し出す。

 神を全く信じていない立場からしたら、このロザリオにどれほどの価値があるか分からない。


 無視される可能性だって大いにあった。


 しかし。

 リヒトの予想していたより、何倍もラエルに大きな影響を与えることになる。


「そ、それは!? 返してください!」


「――うおっ!?」


 ラエルは、リヒトの手ごとロザリオを掴む。

 その瞬間――リヒトの手に、とても柔らかく温かい感覚が走った。


 必死にロザリオを奪おうとしているが、ラエルの握力では程遠い。

 意地悪をするつもりはないリヒトは、その執念に怯みながらパッとロザリオを手放す。


「ああぁ……良かったのです……」



「そのロザリオ、ラエルさんの物だったんじゃないかな? なんでベルンさんが持ってたのかは知らないけど」


「そうみたいじゃな。かなり重要なアイテムだったようじゃ」


 何とかリヒトからロザリオを取り返したラエルは、安堵するようにペタンと座り込んだ。

 先程までと比べて、落ち着いてきている様子も見られる。


 ラエルの情緒が不安定であったのは、ロザリオがなかったせいなのだろうか。

 神への忠誠心の大きさを表しているのかもしれない。


「ラエルさん、大丈夫? ここに敵はいないから安心してほしいな」


「……は、はい。もう大丈夫なのです」


 ふぅ――と深呼吸をして、まっすぐドロシーを見つめるラエル。

 ロザリオの効果もあり、もう怯えているような顔ではなかった。


「さっきの話の続きってわけじゃないんだけど、ボクたちはラエルさんと仲良くしたいんだ。ね、そうでしょ? リヒト」


「あ、あぁ」


 手の出し方が分からないリヒトに代わって、ドロシーがラエルの説得に移る。

 ディストピアに招き入れたいアリアの気持ちも、見事に汲み取ってくれたようだ。


 ネクロマンサーというハンデを背負ってでも、聖女の警戒心を潜り抜けていた。


「……で、でも、貴女たちは魔王軍なのです。私が魔王軍に力を貸すということは、神に対して裏切り行為だと思うのです」


「おい、リヒト。ロゼに頼んで眷属化してもらえば――ウプッ」


 しびれを切らして物騒なことを言い始めるアリア。

 リヒトは慌ててその口を塞ぐ。

 ここで、ドロシーの頑張りを水の泡にするわけにはいかない。


 そもそも、聖女ならば強力な耐性を持っていてもおかしくないため、信用を地に落とすような行為は避けたかった。


「魔王って言っても、全員が全員悪い人ってわけじゃないと思うよ。アリアさんは、東にいる魔王を懲らしめたんだから」


「え!? そうなのですか!?」


 露骨にラエルは驚きを見せる。

 魔王という固定観念が崩れ始めているのだろう。

 そして、ドロシーはその揺らいだ瞬間を見逃さなかった。


「この出会いは、神様がラエルさんの考え方を変えようとしているんじゃないかな」


「そ、そうなのですか!?」



「……物は言いようじゃな」


 巧みなドロシーの言葉によって、ラエルは魔王軍の席に着くことになる。



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