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限界


「なんだ今の音は……?」


「おかしいぞ。アリアって奴はちゃんと拘束してたはずだ。あれを抜けられる奴なんて見たことがない――」


「――そんなのは後で考えればいい! 地下室の出口はここだけだ。絶対に逃がすわけにはいかないぞ」


 ライズは、入り口の扉をしっかりと閉めた。

 この扉を経由せずに、地下室から外へと通じる道は存在しない。


 当然窓などもあるはずがないため、特殊なアイテムを持っていない限り、これで時間は稼げるはずだ。


 ピートの言っていることが正しければ、相手は子どもであるため、容易く捻り潰すことが可能である。

 吹き矢の的が小さいということ以外は、かなり簡単な仕事だった。


「ピート、責任を持って見てこい。俺はここで番をしておく」


「……あぁ。頼んだ」


 ここで地下室を見に行くことになったのは、アリアを捕らえた張本人であるピートだ。

 アリアは武器を持っていなかったため、もし抜け出していたとしても脅威はない。


 そう考えて、近くにあった手斧を武器として選ぶ。



「……はぁ、何か隠してたのか。子どもだからといって侮りすぎたな」


 ピートの独り言は、地下室へと繋がる階段で静かに響いた。

 アリアと出会ってからずっと、心のどこかで下に見ていたらしい。

 まさかこのような展開になるとは毛ほども考えていなかったため、ぶっつけ本番での対応になる。


「おい、いるんだろ? 早く出てこいよ」


 地下室の前に着くと、ピートは大胆にアリアを呼び出す。

 広めの地下室ではなく、長く狭い階段を戦いの場として選んだ。


「――扉は閉めてくれたのか?」


 二人の予想通り、アリアは拘束から抜け出しており、武器は何も所持していない。


 なぜ扉を閉めたことを気にしているのか。

 多少気になる部分ではあったが、それ以外の要素にもっと気になる部分があるため、一々聞き返してはいられなかった。


「どうやってあの拘束を抜けた?」


「儂からしたらあんなもの無いも同然じゃ。で、お主が兄貴とやらを連れてきたから解いた」


「……そうか。逃げるとしたら最悪のタイミングということだな」


 逃げる――というピートの言葉に、アリアは不思議そうな顔を浮かべる。

 心の底から、その言葉の意味を理解できていないようだ。


 なぜ逃げなければいかんのじゃ――とでも言いたげな表情である。


「まあいい。逃げ場はないぞ――ん?」


 ピートが一旦手斧へと目を移し、またアリアの方を向いた時には、既にそこからいなくなっていた。

 地下室へ戻ったという形跡はない。


 ならばどこに行ったのか。

 まさかと思って振り向いた瞬間に――その答えは発覚する。


「――い、いつの間に!?」


 アリアがいたのはピートの背後だ。

 細い階段を気付かれずに、瞬間移動でもしたかのような現象。


 反射的に手斧を握る――握ろうとした。

 先程まで持っていた手斧が、どういうわけかアリアの手に渡っている。


「運が悪かったな。お主の兄貴を恨め」


 不運な弟に同情したのか、アリアは苦しませないようにピートの命を奪う。

 人間が作った手斧でも、何とかアリアの力に耐えられるほどの強度はあった。


 『空間掌握』で遅れているピートの感覚は、痛みがやってくる前に消えてゆく。


「――ピート!」


 異変に気付いたライズは、階段を駆け下りてアリアの視線に入る。

 同時にライズの視線には、凄惨な光景が広がっており、とても冷静でいられる状況ではない。


 加勢しようとした時にはもう遅かった。


「あ、やっぱり貴様じゃ」


「このガキ――!」


 ライズが放った毒の吹き矢は、アリアの横をゆっくりと通る。

 通常の人間からしたら反応することすらできないスピードであるが、アリアの目からしたら眠くなってしまうほどのスピードだ。


 一段一段踏みしめて階段を上ったとしても、ライズの視点では残像すら残らない。


 容易く間合いに入ったアリアは、特に面倒なこともせず首の骨を折ることで戦いを終わらせた。



(……後はベルンに任せるか。もう疲れたのじゃ)


 二人の死体をベルンの元まで持っていこうかとも考えたアリアだったが、それを実現させるほどの気力はもうない。

 とりあえず報告だけでも済ませようと、城へ戻る一歩を踏み出した。



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