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予知


「ベルン様! 昼食をお持ちしました!」


「ありがとう、アンナ。そこに置いといて」


「はい!」


 疲れた表情を見せるベルンの指示によって、アンナは持っている昼食を机の上に置いた。

 今のベルンは、どれだけ美味しそうな料理でも全く興味を示すことはない。


 その理由は、当然アンナも分かっている。

 だからこそ、ベルンを元気づけるために明るく接していた。


「ベルン様……元気を出してください。警備の人もいますし、きっと大丈夫です!」


「……そうね」


 アンナの励ましをベルンは適当に返す。

 何を言われたとしても、警備を信用しろというのは無理な話だ。

 あれほど貧弱な存在に、命を預けることなどできない。


 今は、アリアの助けを待ち続けるだけである。


「アンナ。近いうちに、私の友人が遊びに来ると思うの。少し変な人かもしれないけど、気にしないであげてね」


「え!? そうなんですか!? それならおもてなしをする準備を――!」



「そ、その件なんだけど……ちょっと気難しい人だったりするから、あまり話しかけないであげた方がいいかも」


「な、なるほど……! 分かりました!」


 ベルンの嘘。

 これは、下手にアンナを巻き込ませないためだ。

 アンナの性格なら、相手が魔王だと知らずに粗相をする可能性がある。


 かと言って、魔王が来るとも言えないため、きっかけを潰すという判断をした。

 これなら、二人の身に危険が迫ることはないだろう。



「――ベルン様」


 コンコン――と。

 アンナが納得した様子を見せ、ベルンが胸を撫で下ろした瞬間。

 別のメイドの声が扉越しに聞こえてくる。


「ベルン様の友人と名乗る二名が、この城に訪れてきました。どうなさいましょうか? 女の子と青年です」


「――よし! 連れてきてちょうだい。私の友人だから、くれぐれも失礼のないようにね」


「かしこまりました」


 また扉越しに、メイドの足音が耳に入る。

 少し急ぎ足であり、ベルンの意を汲み取ってくれているようだ。

 アンナとは真逆で、とても気が利くメイドであった。


「アンナ。というわけで、友人が来るわ。さっき言ったこと忘れないでね」


「はい!」


「ありがとう、いい子いい子」


「えへへー」


 ベルンは、いつものようにアンナの頭を優しく撫でる。

 こうすることで、アンナの聞き分けが数倍良くなることを知っていた。

 今のベルンであれば、自由自在に操れると言っても過言ではない。


「それじゃあまたね。上手くやってくれたら、後でご褒美をあげるから」


「本当ですか! 頑張ります!」


 そういって、アンナは上機嫌のまま部屋を出て行くことになる。

 あと数分後には、アリアとリヒトが到着するはずだ。


 二人が到着さえしてしまえば、ベルンを暗殺するというのは至難の業。

 仮に殺されたとしても、死ぬことはなかった。



「おーい、来てやったぞ」


「あっ! 魔王様! わざわざありがとうございます!」


 予想していたよりも早く。

 アリアとリヒトは、ベルンの元へ辿り着くことになる。

 早めにアンナを部屋から出すという判断は、どうやら正解だったようだ。


 女王が跪く姿を、メイドに見せるわけにはいかない。


「さっき挙動不審なメイドを見たのじゃが、何かあったのか? 儂らを見るや否や、ずっと下を向いておったぞ」


「あ……いえ、気にしないでください」


 ベルンはドキリと冷や汗を流す。

 アンナには気難しい人間であると伝えたため、それが脅しとなってしまったらしい。


 言い伝えを律儀に守ろうとしたところも、それが空回りしてしまうところも、全てがアンナらしい行動だった。


「まあ良い。それで、暗殺者というのは大丈夫なのか? ここに長くいれるほど、儂らは暇ではないぞ?」


「……暇なくせに」


「リ、リヒトは黙っておれ!」


「いててて!」


 ボソッと呟いたリヒトの一言に、アリアはすかさず指摘をする。

 魔王たるもの、暇を持て余しているとバレたら、配下に舐められてしまうかもしれない。


 そのプライドが、リヒトの腕の肉をつねる指に力を入れていた。


「そもそも、どうして暗殺者がいると知っておるのじゃ? ターゲットに悟られるようでは、暗殺者としては失格じゃと思うがな」


「それは……占いです」


「……おいおい。それは信用できるんじゃろうな? 遊びに付き合うのはごめんじゃぞ?」


「い、いえっ、信じてください! 確かにこの目に映ったんです! 私の殺される未来が!」


 やる気のなさそうなアリアに、ベルンは必死に訴えかける。

 妖狐であるベルンは、自分に身に起こる危険を予知することが可能だ。


 本当に命に関わるような出来事でないと予知することができないため、普段なら役に立たない能力であるが、実際に働いた時の恐怖感は桁違いだった。


 ここでアリアたちに帰られてしまうと、絶望の中で過ごす生活が待っている。

 この状況――すがりついてでも、止めなくてはならない。


「アリア。多分俺は本当だと思うよ。冗談でこんなに必死になるとは思えない。信じた方がいいんじゃないか?」


「……リヒトが言うなら仕方ないのじゃ。やるなら徹底的にやるぞ」


「あ、ありがとうございます!」


 ベルンの感謝の気持ち。

 人を化かす者として、信用された時の嬉しさは計り知れなかった。



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