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四匹と一人


「よいしょっ。はい三匹目」


 剣を持ったレーネは、メイド目掛けて容赦なく振り下ろす。

 紛い物のヴァンパイアと、プロの吸血鬼狩りでは流石に分が悪い。


 メイドは為す術もなく、膝から崩れ落ちた。

 そこには、三人分の死体が血の海を作っている。


「……雑魚しか出てこないけど、どうなってるの? ヴェートやアルフは大丈夫かしら」


 レーネの危惧。

 自分の所に雑魚しか来ないということは、残りの二人の所に戦力が回されているということだ。

 ヴェートならば心配ないものの、アルフでは手に余る可能性がある。


 一秒でも早く挟み撃ちの形にするため、レーネは歩くスピードを更に上げた。



「――侵入者っ!? ここは通しません!」


「……なんだ。紛い物か」


 四匹目。

 これもまた純粋なヴァンパイアではない。

 このメイドは何も武器を持っていないことから、戦いというものを全く理解していないようだ。


 通常の人間であれば、眷属化によって得た力で捻り潰せるだろう。

 しかし、それはあくまで一般の人間の話。

 レーネたちのように能力を身に付けた者の前では、傲慢以外の何者でもなかった。


「貴女もこの三匹のようになりたくなかったら、さっさと主人の場所を教えなさい」


「――三匹? ひっ……!?」


 既にレーネが殺した三人の死体を見て、思わず口に手を当てるメイド。

 どうやら本当に戦いを知らないらしい。

 元々人間であった時には、有名な貴族の元でぬくぬくと育てられてきたのだろうか。


 そう考えると、なかなか納得できてしまうほどの美貌をメイドは持っている。

 かつて貴族に嫌な思いをさせられたレーネは、自分でも無意識のうちに剣を抜いていた。


「早く言わないと殺すわよ? 貴女の代わりは何人でもいるんだから、喋った方が賢明だと思うけどね」


「わ、私は屈しません!」


「あらそう。なら拷問でもしようかしら。指を一本ずつ潰していくの。神経が詰まってるらしいから痛いだろうなぁ。何本目でギブアップするんでしょうね?」


「ひいぃ!?」


 レーネの言ったことを想像し、メイドは顔を真っ青にする。

 これまでにない――かなり面白い反応だ。

 もう少し遊ぼうかとも考えたが、先程自分が言ったように時間が無い。


 少々名残惜しい気持ちも感じながら、確実に殺すための準備を始めた。


「それじゃあね」


「――くっ!」


 メイドは覚悟を決めたように、ツメと牙を剥き出しにして突撃する。

 純粋なヴァンパイアと違って、紛い物には噛まれても全く問題ない。

 ツメで引っかかれたとしても、致命傷には程遠いだろう。


 それに加えて、あくびが出てしまうほどのスピード。

 楽しいのは、からかっている時だけだった。


「――これで四匹目」


 無慈悲に振った剣を、メイドの血が赤く染める。

 何の面白みもない死に方に、レーネはガッカリとした表情を見せるが、それも一瞬の出来事だ。


「……侵入者。やっと見つけたぞ」


「はぁ……また紛い物か――って、人間?」


 顔についた返り血を拭いているところに。

 息を荒くした男が、汗を拭いながらやって来た。


 メイド服を着ておらず、女というわけでもない。

 そもそも、ヴァンパイアですらない。

 完全に自分と同じ人間だ。


「貴方、人間よね? 何でここにいるの?」


「さあな。それより――」



「リ、リヒト様! 大丈夫ですか!」


 背後から聞こえるメイドの声。

 レーネは慌てて振り向くと、そこには血まみれのメイドが何事も無かったかのように立っていた。


 それも一人ではなく四人。

 確実に殺したはずのメイドが、全員ピンピンとした状態で蘇っている。

 レーネの知っている限りでは、ヴァンパイアにこのような能力はない。


 それならば、考えられるのは目の前にいる男のみ。

 リヒトと呼ばれた男の能力だ。


「メイドさん。一旦ここは逃げてください。早くドロシーかロゼのところに」


「で、ですが!」


「こっちは大丈夫ですから」


「……か、かしこまりました! ご武運を!」


 そう言うとメイドたちは、パタパタと戦線から離脱する。

 リヒトを信じての決断。

 迷いはもうなかった。


「勇敢なのね、それとも殺される姿を見せたくないから?」


「どっちもかな」


 レーネの安い挑発に乗ることなく。

 リヒトは持参した剣を抜いた。



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