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リヒトのお仕事


「どうですか、リヒト様? 私はこちらのロゼ様が好きなんです」


「はあ……」


 カノが指さした場所には、五歳児ほどのロゼが笑顔で写っている。

 邪悪な心が、全て浄化されるかのような笑顔だ。

 アリウスやカミラを始めとして、メイドたち全員がメロメロになってしまうのも理解できた。


「この頃のロゼ様は、とても元気が良くて大変だったんです。私たちメイドの後をずっと付いてきたりして……」


「へぇー。やっぱり、ロゼにもそういう時期があったりしたんですね」


「はい。転んだりして擦り傷を作った時は、城の全員で看護をしたりしました」


 カノは、懐かしそうな顔で思い出を語っていく。

 何百年も前の記憶だとしても、全く薄れていない。

 まるで昨日の出来事かのような口調である。


「今の落ち着いたロゼ様も好きなのですが、昔のロゼ様も恋しかったり――あ! すみません。変な話になっちゃいましたね……」


「いえいえ、大丈夫ですよ。これがその時の写真ですか?」


「そうです。こちらは看護中の写真で、こちらは治療が終わって寝ちゃってる時の写真ですね」


 リヒトが見つけた写真に、カノの説明が付け加えられた。

 放っておくと、一人でいつまでも喋ってしまいそうだ。


 それほどまでに、思い出深い出来事なのだろう。

 おびただしい数の写真が、それを裏付けるように存在している。


 治療開始から完了まで、一分ごとに写真を撮っているらしい。

 何も知らないリヒトが見ても起承転結が把握できるほどに、しっかりと記録されていた。


「……リヒト様」


「はい?」


「実は、魔王様の元で働かれているロゼ様の写真も残しておきたいと考えまして……」


 カノはその言葉と共に、一つのカメラをリヒトに手渡す。

 この行為だけで、カノが言いたいことは十分に理解できた。


「当然報酬は用意させていただきます。人間界のお金でよろしいでしょうか? それとも、財宝のような物の方がよろしいでしょうか?」


「いやいや! そんな物はいりませんから!」


 リヒトは、報酬を見せようとするカノを止める。

 この城の規模だと、金山を一つ与えられたとしても不思議ではない。

 ただのカメラマンだけで、それほどの報酬を貰うのは気が引けた。


「ほ、本当によろしいのですか……? お望みでしたら、追加で用意することも可能ですよ……?」


「大丈夫です、大丈夫ですから。ロゼが働いているところを撮れば良いんですよね?」


「はい! よろしくお願いします! 千枚ほどあれば、アリウス様もカミラ様もお喜びになるかと」


「千枚!?」


 リヒトは頭を悩ませる。

 仕事を引き受けるのは確定したが、それはあまりにも重労働だ。

 百日で考えると、一日に十枚ほど写真を取らなくてはいけない。


 そこまでいけば、もうカメラマンではなくストーカーであろう。


「流石に千枚は……」


「一枚につき、金を一キログラムでお願いします」


「……それはロゼに送ってあげてください。仕事はやりますから」


 ロゼを使って金を稼ぐという罪悪感は、リヒトが耐えられるものではなかった。


 そして。

 吸血鬼城の皆々が諦める気配を見せないため、千枚撮ることは確定事項となる。


「では、頑張ってください! 楽しみに待っておりますね!」


「……分かりました」


 リヒトは百人以上の期待を胸に、そのカメラを首へとかけた。



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