ロゼのお誘い
「いやー、まさかアリアが休暇をくれるなんてなぁ。これで堂々とゆっくりできるよ。ロゼは何日貰ったんだ?」
「四日です、リヒトさん」
「それなら俺と同じだな。ロゼはもうちょっと貰ってもいいと思うけど」
珍しくロゼの領域に誘われたリヒト。
休暇を貰ったということで、二人共が落ち着いた時間を過ごしていた。
今は、ロゼが用意した食事を楽しんでいる最中だ。
テーブルいっぱいに広がる料理――手の込みようからして、ロゼの気合いが伺える。
ヴァンパイアであるロゼには、高級そうな血液が。
人間であるリヒトには、肉と野菜が丁度いい割合で配られていた。
休暇で余っている時間を、ずっと料理に充てていたらしい。
ロゼの趣味が増えて良かったなぁ――などと、リヒトは美味しい料理に満足しながら考えている。
「リヒトさん……えっと、ですね」
「……? どうしたんだ、ロゼ?」
その空間で。
意を決して話しかけたのはロゼの方だ。
「実は、休暇を利用して実家に帰ろうと考えていまして……」
「実家!? 実家って言ったのか!?」
「は、はい……」
リヒトは驚きを隠せない。
まさかロゼの口から、実家という単語が出てくるとは考えてもいなかった。
料理の感想も、これから話そうとしていたことも、頭の中から消え去ってしまう。
それほどまでの衝撃だ。
「……でも百年間死んでたわけだし、言ったら悪いけど、実家があるかどうかすら分からないんじゃないか?」
「……そうなんです。その確認をどうしてもしておきたくて」
リヒトの言葉にシュンとしながら、ロゼは自分の思いを正直に伝える。
百年間というのは、ヴァンパイア寿命から考えるとそこまで長い時間ではない。
つまり、ロゼの家族に何事もなければ、今もその家で暮らしているはずだ。
ロゼの父母にもよるが、山奥でひっそりと暮らしているのなら生きている可能性が高い。
「そうか、元気にしてるといいな。百年ぶりだったら、お父さんもお母さんも喜ぶと思うぞ」
「はい! それでなんですけど、リヒトさんを招待させてくれませんか?」
「……へ?」
食事に戻ろうとしていたリヒトの手が再度止まる。
聞き間違えなどではなく、ハッキリと自分の名前が呼ばれた。
わざわざ実家に招待するとなったら、普通は自分の主人であるアリアを選択するだろう。
久しぶりの休暇で浮かれていたリヒトの頭が、ロゼの言葉一つで蜘蛛の巣のようにこんがらがる。
「どうして俺を……?」
「だって、リヒトさんは私を生き返らせてくれた恩人ですし……お父様やお母様にも紹介しておきたいなって。ダメ……ですか?」
「ダメ……じゃない」
不安そうな視線を向けるロゼ。
ロゼが本気で感謝してくれている分タチが悪い。
この目で見られてしまっては、リヒトに断る選択肢は存在しなかった。
この好意を無下にするわけにもいかないため、リヒトは喜んで(?)招待されることになる。
「一応聞いておくけど、お父さんとお母さんはめちゃくちゃ怖い人ってわけじゃないよな……?」
「それは大丈夫です! とても優しい人たちですし、リヒトさんのことを伝えれば絶対に歓迎してくれます!」
「そうか。ありがとう」
ふぅ――と一息。
ここから四日間は、かなり充実した日々になりそうだ。
仲間であるロゼとの親睦を深めるチャンス。
ロゼが他人に何かを頼むということも珍しいため、少しだけ嬉しい気持ちになった。
「そう言えば、その実家に招待してるのって俺だけなのか?」
「いえいえ、ドロシーさんもお誘いしています」
「そ、そうなのか」
自分だけかとリヒトは勘違いしていたが、そんなことはなかったらしい。
肩透かしを食らったような気分。
しかし、逆にドロシーがいると考えたら心強かった。
「私は明日出発する予定ですけど、リヒトさんは大丈夫そうですか?」
「ああ、大丈夫だよ。夜更かししないように気を付けてな」
「もぉー、イリスじゃないんですからー」
ロゼは崩れるように笑う。
ここで。
ようやくリヒトは食事に戻ることができた。
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