ガイトの推理
「ベルン女王! お待ちしておりました。レサーガ国の使者を務めさせてもらっています。ガイトと申します」
「初めまして。大体のお話は従者から聞いています」
客室には、なかなか大柄な男が一人座っていた。
他の国と関係を持たないようにしていたからか、客室に入るのはかなり久しぶりである。
たとえラトタ国の国民が訪ねてきたとしても、ベルンが対応するほどの問題ではないため、ほとんど従者に回して解決だ。
「用件は、正体不明のダンジョンについてですね?」
ベルンは、話を始めるために対面のソファーに座る。
上質なそのソファーは、ベルンの体重を全て受け止め、集中しやすいような環境を作った。
腰に負担は一切かからない。
使う機会の少ないことが、勿体なく感じてしまうくらいだ。
「その通りです、ベルン女王。お話が早くて助かります」
「それで、我が国の冒険者の力を借りたいというお考えでしょうか?」
「……ハハ。本当にお話が早い」
ガイトと名乗った使者は、困ったような顔で笑う。
自分が言うべきことを、先に全部言われてしまったのだろう。
これから何を言えば良いのか、必死に頭の中で探しているような様子だった。
「実はですね。我がレサーガ国は、そのダンジョンに四人の冒険者を向かわせたのです。しかし、彼らが帰ってくることはありませんでした」
「……なるほど」
「あのダンジョンには、間違いなく化け物が潜んでいます。放っておくと、人間界どころか世界まで支配されてしまいそうな気がするんですよ」
ガイトは口調が荒ぶらないように、なおかつ深刻さを伝えるように物事を話す。
そして、その予想は見事に当たっていた。
アリアのことを知っているベルンだからこそ、ガイトの危惧の正当性が理解できる。
アリアと出会っていなかったとしたら、自分の身を守るためにも、レサーガ国の話に乗っていたかもしれない。
しかし、今は魔王に魅せられた一匹の妖狐だ。
「現に多くの冒険者たちは、あのダンジョンのことでザワついているようです。一人の冒険者である俺がそれを証明します」
「……ガイトさんは冒険者だったのですね」
「長年冒険者として活動してきましたが、今回は特別な気がするんです。戻って来なかった冒険者たちの強さを考えると、魔王のような存在がいても不思議ではありません」
(……すご。ほとんど正解してる)
ベルンは、ガイトの推理についつい感心してしまう。
完璧と言ってもいいほどに的中しているそれは、人間と言えど褒めるしかなかった。
冒険者としての経験によるものなのかは不明だが、ガイトの実力を表しているようにも感じる。
それと同時に。
このダンジョン攻略にかけている思いが、ヒシヒシと伝わってきた。
「ディストピ――コホン。そのダンジョンに魔王がいるとして、どのようにするおつもりですか? 簡単に倒せるような相手ではないと思いますけど……」
「もし魔王がいた際は、俺の命にかえても倒すつもりです。レサーガ国には、自分に刻まれるダメージと比例して、鋭さが増していく剣があります。その効果を最大まで引き出せば、少なくとも相打ちにまでは持っていけるはずです」
ベルンの疑問に、覚悟を決めた顔で答えるガイト。
命にかえても――という言葉に嘘はないらしい。
国のために力を尽くす勇者の瞳がそこにあった。
ラトタ国には隠しておくという選択肢もあった剣の存在を、包み隠さず伝えたところから、絶対に引かないという気持ちが伝わってくる。
(相打ちになったとしても、リヒトさんがいれば蘇生されちゃうんだよね。いや、元々相打ちになんてならないだろうけど)
全てを知っているベルンは、ガイトの覚悟が無駄でしかないことを理解していた。
裏切り行為にあたってしまうため、ガイトに伝えるようなことはしないが、それでも可哀想だということに変わりはない。
ベルンの仕事は、彼らを笑顔で送り出すだけだ。
「……ガイトさんなら任せていいかもしれませんね。その瞳を信用しましょう。我が国の冒険者をお貸し致します」
「ほ、本当ですか! 感謝します! ベルン女王!」
テーブルに擦り付けん勢いで、ガイトは頭を下げる。
まさか本当に協力してもらえるとは、思ってもいなかったのだろう。
覚悟に固まっていた顔が、緩まったような気がした。
「それで。ダンジョンにはいつ攻める予定なのですか?」
「はい。こちらの準備は既に整っておりますので、ベルン女王がタイミングを指定していただければ……」
「なるほど。ラトタ国の冒険者にも伝えなければならないため、時間は少しかかってしまうかもしれませんが……よろしいですね?」
「当然でございます。こちらとしても、共に戦う仲間は時間をかけて選ぶべきと考えていますから」
ディストピアに向かう冒険者のことをアリアに伝える時間は、想定していたより何倍も簡単に確保できた。
ここまで来ると、ベルンの仕事はほとんど終わったようなものだ。
後は、冒険者たちをアリアに引き渡すだけである。
ボスとしてベルンを配置する――という遊びをアリアがしなければ、もう二度とガイトと会わないかもしれない。
「それではよろしくお願いします! 絶対に良い話を持って帰りますよ、ベルン女王!」
「フフ、楽しみにしています」
それからのベルンは、ガイトの熱い話を延々と聞かされることになった。
ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!




