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格の違い


「――な!?」


「これで信じたじゃろ?」


 ベルンの顔に、リヒトの血が数滴飛び散る。

 アリアが、どのような攻撃をしたのかすら分からない。

 完全に格の違いを見せつけられた。

 この攻撃がリヒトではなくベルンに向けられていたと思うと、呼吸が止まってしまいそうだ。


「か、彼は! 貴女の仲間だったんじゃないんですか!? 殺すなんて、いくらなんでもやり過ぎです!」


 しかし。

 そのような考えも、吹っ飛んでしまいそうな光景が目の前にあった。

 まさかこの場で人殺しが行われるとは思っていなかったため、衝撃は数倍である。


 血を見るには、まだまだベルンは早すぎたようだ。


「リヒトなら死んでおらんぞ」


「…………はい? だって、完全に死んでる――」


「――アリア! いきなり攻撃するなよ!?」


「うわっ!?」


 死んだはずのリヒトが、何事も無かったかのように起き上がる。


 あの血の量で死んでいないというのは、絶対に有り得ない。

 しかしそれでも、現実では傷跡すら残っていない。


 理解の追いつかない出来事が立て続けに起こり、もうベルンの頭はパンクしてしまいそうだった。


「貴女たちは何者なんですか……? まさか本当に魔王……?」


「最初からそう言っておるじゃろ。まぁ、リヒトは人間じゃがな」


 ベルンはゴクリと唾を飲み込む。

 この瞬間に上下関係が確定した。

 言うまでもなく、ベルンが下である。


「……度重なる無礼な振る舞い、申し訳ございませんでした。魔王様」


 ベルンは少し考えると、床に手を付けて丁寧に挨拶をする。

 命乞いなどではなく、一匹の妖狐として魔王に捧げる敬意だ。


 魔王となれば、妖狐など足元にも及ばないほどの上位者であった。

 アリアも、従順になったベルンを見て満足そうに頷いている。


「うむ。人間界に溶け込んでいるだけあって、なかなか賢い奴じゃな」


「アリアって凄い人だったんだな」


「当たり前じゃ。魔王なんじゃから」


 フフン、と自慢げに鼻を高くするアリア。

 リヒトに認められたことで、機嫌がかなり良くなっているらしい。

 ベルンの失礼な態度も、全く咎めることなく許していた。



「ベルン様ー! 何か変な音がしましたが、どうかしたのでしょうかー?」


「だ、大丈夫よ、アンナ! 何でもないから、仕事に戻ってちょうだい!」


 先程の音を聞きつけて、部屋の前に立つアンナ。

 その声に、ベルンは素早く反応する。

 この状況で部屋に入ってこられたら、アンナの命すら保証できない。

 アンナを守るためにも、自分の地位を守るためにも、絶対に部屋へ入れるわけにはいかなかった。


「分かりました! 何かあったら、遠慮なく呼んでくださいね!」


「……ふぅ」


 ホッと一息。

 アンナが単純な性格であったことに、感謝するしかない。

 この単純さが、アンナを近くに置いている大きな理由だった。


「あ、そうじゃ。本来の目的を忘れておった。どうして魔族が人間界に溶け込んでおるのじゃ?」


 無事にアンナを追い返すと、思い出したかのようにアリアから質問が飛んでくる。

 その質問は至極真っ当なものであり、ベルンもいつか聞かれるだろうと思っていた。


 そして、それに対しての答えは、愚痴でもこぼしていたようにシンプルなものだ。


「人間界なら楽に暮らせるかなぁ、と思いまして……実際はそんなことなかったんですけど」


「そんな不純な動機で女王まで登り詰めるとは、感心してしまうのじゃ」


「あ、ありがとうございます。魔王様」


 完全に魔王の手下になっているベルン。

 まるで懺悔しているような口ぶりである。

 アリアも、呆れを通り越して感心していた。


「人間界で生きていくのも大変なんじゃな」


「はい……せっかく女王になったのに、こんなに疲れるとは思ってませんでした」


「アハハ、頭が良いのか悪いのか分からんぞ。王という立場が、楽なものであるわけないじゃろ」


 王という立場で生きている先輩として、アリアはベルンにハッキリと言う。

 後輩の甘い考えは、正そうとお節介を焼いてしまうものだ。


 肝心のベルンも、しっかりとその言葉を受け止めていた。


「――まぁ、これ以上特にする話はないのじゃ。お主の存在が気になっただけじゃしの」


「な、なるほど」


「……あ。人間界との繋がりも少しは持っておきたいから、友人という関係になっても良いか?」


「――!? よ、よろしいのですか!?」


 ドキッとベルンの心臓が跳ね上がる。

 魔王と繋がりを持てるなど、またと無いチャンスだ。

 断るという考えすら浮かばない。


 たとえ支配下に置かれるとしても、圧倒的強者に守られているのならば、文句の一言すら言えなかった。


「勿論じゃ、妖狐というのは珍しいしの。リヒト、お主も別に良いじゃろ?」


「良いと思う――というか、人間の国のトップと魔王が繋がるって、冷静に考えたら凄すぎるけど……」


「あ。私は人間に思い入れがありませんので、裏切ることは有り得ません! 私の安全だけ保証してもらえれば……」


「任せておくのじゃ」


 ここで、絶対に破られない契約が結ばれる。

 魔王側と人間側では、どちらにつくかなど比べるまでもない。

 自分のことを優先するのは、魔族でも人間でも同じだ。


 そもそも、妖狐ということで最初から魔王側だった。


「あの……最後に。どうして、このリヒトさんは魔王様の攻撃で死ななかったのでしょうか……?」


「こやつは《死者蘇生》のスキルで、死んだ者を蘇生させることが出来るのじゃ。見ての通り、自分自身をもな。ベルンが死んでも蘇生させてやるから、先に感謝しておくと良いぞ」


「……凄すぎませんか。そ、それって、不老不死みたいなものですよね? 遂に夢が叶いました……」


 ベルンが、永遠に楽をして暮らす夢を見てから数年。

 遂にその夢が叶った瞬間であった。

 確実な命の保証というのは、どのような宝石よりも魅力的なものである。


「それじゃあ、交渉成立じゃな。また今度美味いものでも食いに来るのじゃ」


「は、はい! お待ちしております!」


 また一人――一国が。

 アリアのカリスマ性に惹き込まれた。


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