決着
「アリア! 戦いは終わったのか?」
「遅かったのお。とっくに終わってしもうたぞ」
「そうか……無事みたいで良かっ――ロゼ!?」
最終決戦の地へ、遅れてやって来るフェイリスとリヒト。
そこには、いつも通りのアリアと血まみれのロゼがいた。
アリアに抱えられながら、ピクリとも動いていない。
よく見ると胸には大きな致命傷があり、片腕は無くなっている。
その傷跡だけで、東の魔王との壮絶な戦いを物語っているようだ。
「何をグズグズしておる、早く蘇生してやるのじゃ」
「そ、そうだったな。《死者蘇生》」
あまりに衝撃的な光景に動揺していたリヒト。
アリアに促される形でロゼの蘇生を行った。
胸の傷はあっという間に塞がり、失われた右腕はトカゲの尻尾のように生えてくる。
これによって体の傷は完全に消え、血まみれの服を着替えれば元通りのロゼだ。
アリアが、ペチンと優しく頬を叩いたところで、ロゼは眉間にシワを寄せながら目を覚ました。
眩しいものを見ているかのような表情。
朝に無理やり起こされた子どもとさえ思える。
先ほどまで、死闘を繰り広げていた化け物とは到底思えない。
「魔王様……にリヒトさんと、フェイリス? どうして――って! 東の魔王は!?」
「落ち着くのじゃ、ロゼ。もう倒しておる。よく頑張ったのじゃ」
「ま、魔王様……ありがとうございます……」
頭を撫でながらロゼを抱擁するアリア。
下僕を労うという意味では、これ以上ないほどのものである。
蘇生直後の困惑も、アリアの胸の中でゆっくりと消えていく。
自分より小さい体であるにも関わらず、計り知れない包容力があった。
「みんな頑張ったなの。あのデカいやつ強かったなの」
「そういえば、他の敵はアリアが全部倒したのか?」
「ぶっちゃけると、イリスとティセがほとんど倒しておったぞ。殲滅するとなったら、やはりあやつらの右に出る者はおらんな」
「すごいな……」
アリアの返答に、リヒトは苦笑いすることしかできない。
正確な数は分からないが、少なくとも百匹以上は敵がいたはずだ。
ドーバも含めた強敵たちを、たった二人で片付けるなど常軌を逸している。
魔王であるアリアが、一目置いているということで異常さが際立っていた。
「リヒトはどうだったのじゃ? 楽な相手ではなかったじゃろうが、フェイリスもおったことじゃし――」
「……まぁ。能力を隠そうとしていたから、手こずったりしたかも」
「素晴らしい心がけかもしれんが……クク、東の魔王には能力なぞ見抜かれるから、意味の無い行為じゃったかもしれん」
「え!? そうだったのか!?」
あの苦労は何だったのか。
アリアは笑いをこらえながら、衝撃の真実をリヒトに伝える。
東の魔王に、元々フェイリスの能力は通用しなかったようだ。
「気にするでない。良くあることじゃ」
「そ、そうだな……」
ガクリと崩れ落ちてしまいそうなリヒトを慰めるように、アリアは優しく肩を叩く。
このことを、ずっと引きずっていても仕方がない。
上司としてあるべき姿がそこにあった。
「よーし。みんなご苦労であった! 今夜はパーティーじゃぞ!」
「いえーい、なの」
こうしてリヒトたちは、誰も死者を出すことなく勝利を収める。
魔王対魔王。
歴史に残るであろう戦いの結末を知るのは、彼らだけだった。
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