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竜人たちのその後

「リヒトさん! フェイリスさん! こちらに昼食を用意してます!」

「もうそんな時間か」

「おいしそーなの」


 竜人の里にて。

 復興の手伝いをしていたリヒトとフェイリスの元に嬉しい報告が届く。


 昼食の時間だ。

 朝からずっと働いていたため、そろそろお腹に何かを入れたくなってきた頃合いである。

 カインやラルカたちもそれを察してくれたのか、準備ができた瞬間すぐに教えてくれた。


「これはなんだ?」

「湖で捕れた魚です! とっても美味しいですよ!」


 机に並べられていたのは、さっき捕れたばかりの魚たち。

 調理方法は至ってシンプルだ。

 塩を振って焼くだけ。


 生で食べるようなことはしないらしい。

 竜人族の最もポピュラーな家庭料理である。

 それが机の端から端まで目一杯に広げられていた。


「いっぱいありますから、遠慮なく食べてくださいね」

「すごい量だな……」

「頑張ったかいがあったなの」


 フェイリスは骨を上手く残しながら魚をかじる。

 よっぽどお腹が空いていたのだろう。

 みるみるうちに肉の部分は消えていき――。


 あっという間に骨だけになった。

 そのスピードはピラニアにも勝りそうだ。


「おいしいなの」

「あ、ありがとうございます! 良かったです!」


 ホッと胸を撫でおろすラルカ。

 リヒトたちの口に合うか心配していたようだが、その心配は杞憂に終わったようだ。

 ラルカもフェイリスの隣に座る。


 そして、骨ごと魚の頭を噛み砕いた。

 実に竜人らしい食べ方である。


「その……今回は本当に感謝しています。南の魔王軍から守ってくださっただけでなく、こんな手伝いまでしてくださるなんて」

「気にしなくていいなの」


「で、でも……」

「フェイリスの言う通りだよ。アリアの命令があったからこそだし、俺にできるのは守ることくらいだから」

「アリアさん……ですか」


 アリアという名前に、ラルカはピクリと反応する。

 この名前は、南の魔王軍を倒した直後にも出てきた名前だ。

 リヒトたちを従えている存在。


 そんな人が、また自分たちのためにリヒトとフェイリスを動かしてくれた。

 感謝してもしきれない。


「――アリアさんには、どうしたら会えるのでしょうか!」

「え……会う?」


「はい! 直接会ってお礼をしなければと思いまして……!」

「うーんと……会ってくれる可能性がないわけじゃないけど」


 唐突なラルカの発言に、リヒトは頭を悩ませる。

 ラルカの目を見たら、今の発言が本気であることは分かった。


 難しいというのも承知の上であろう。

 この勇気ある行動を無下にするのもかわいそうだ。

 できればラルカの望みを叶えてあげたい気持ちになる。


 ――と同時に、やはりアリアを説得する難しさも伸し掛かる。

 アリアは全て気まぐれで行動すると言っても過言ではない。

 その性格を鑑みると、とても任せておけとは言えなかった。


「武器と防具を受け取りに来る時、アリアを連れてこれるかもしれない。もちろん絶対じゃないけど」

「そ、それでも大丈夫です!」


「リヒトさん、それならお願いしたら何とかなりそうなの」

「そうだな。アリアに頼んでみるか」


 結果。

 今すぐではないが、アリアに後日頼んでみるという方向に落ち着く。

 ラルカとしては、それでも望外な結果だ。


 元々玉砕覚悟の提案であったため、可能性が僅かに存在しているだけでもありがたい。

 これからの仕事にも気合が入る。


「ラルカ姉さーん。こっちは綺麗になったよー」

「分かったー! カインもそろそろ休憩したらー?」

「そうするよー」


 遠くにいるラルカに、カインから大きな声で報告が届いた。

 現在、カインたちは南の魔王軍の侵攻で流れた血を掃除している。

 もう少し時間がかかる作業だと思っていたが、想像よりも早く終わることになったらしい。


 みんなの里が元の輝きを取り戻しつつある。

 子どもたちも、外で追いかけっこをしながら遊んでいた。


 いつもの日常。

 一度失いかけたからこそ、その素晴らしさが理解できる。


「子どもは元気だな」

「楽しそうなの」


「リヒトさんたちが来て喜んでいるんですよ。子どもたちにとってはヒーローですから」

「……ヒーローなんて似合わないけど」


 リヒトは元気に遊んでいる子どもたちに目を向ける。

 過去に来た時よりやけに騒がしい。


 ラルカ曰く、リヒトたちの姿を見て喜んでいるようだが、肝心の二人は素直に喜ぶことができなかった。

 そもそも、このような視線に慣れていない。


 子どもと関わる機会もこれまでの人生でなかったため、どう接していいのかも不明だ。

 特にフェイリス――子どもに興味津々ではあるものの、上手くアプローチできずにずっとモジモジしている。

 ラルカはそれを察したのか、遠目で見ている子どもたちをチョイチョイと呼んだ。


「フェイリスさん、良かったら子どもたちと一緒に遊んであげてください」

「え……止めといた方がいいなの」

「そんなこと言わないで、ほら」


 ラルカに呼ばれた子ども数人が、フェイリスの服を弱い力で引っ張る。

 これには座っていたフェイリスも立ち上がらざるを得ない。

 そして立ち上がったら最後。


「こっちだよ、おねーちゃん」

「ひ、引っ張ったらダメなの……!」

「はやくはやくー」

「ううぅ……」


 あっという間にフェイリスは子どもたちに連れて行かれてしまった。

 あれだけフェイリスが焦るのも珍しい。


 本当に子どもと関わった経験が少ないのだろう。

 リヒトはその様子を面白そうに眺めている。


「リヒトさん、すみません。フェイリスさんを無理やり……」

「ああ、全然大丈夫。フェイリスもそっちの方が良かったみたいだし」


「フェイリスさんって不思議な方ですね」

「うん。今でもあいつのことはよく分からないよ」


 苦笑いするリヒト。

 フェイリスのことを知るには、もっと膨大な時間が必要だ。


 リヒトはまだ彼女のことをほんの一部しか知らない。

 ちょっとはフェイリスのことも分かってきたかと思えば、毎回その度に予想外の行動ばかりとられる。

 今回もそうだ。


「次はおねーちゃんが鬼ね!」

「分かったなの」

「にげろー!」


 チラリとフェイリスのいる方向を見ると、そこには楽しそうに子どもたちと遊ぶ彼女の姿があった。

 誰があんなフェイリスの姿を想像しただろうか。

 長い間一緒にいるアリアでさえ、きっと予想できなかったと自信を持って言える。


「リヒトさんも混ざりますか? なんて」

「いや、俺は遠慮しとくよ。まだ仕事は残ってるし」

「そ、そうですか……なら私も手伝いますので、作業の方を終わらせちゃいましょう!」


 そのラルカのセリフをきっかけに、リヒトはよいしょと立ち上がる。

 子どもたちの笑顔を見て、少しだけやる気がでてきた。

 作業も終盤。


 協力したらあと少しで終わる作業量だ。

 フェイリスが遊んでいる間に終わらせてしまおう。

 できれば子供たちが笑顔の間に。


 リヒトはふぅと気合を入れた。


「これが終わって帰還したら、アリアにさっきのことを聞いてみるよ」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 ラルカは笑顔を見せ、腰の位置まで頭を下げる。

 そして、残りの作業のために駆け出した。


 よっぽどリヒトの言葉が嬉しかったのだろう。

 リヒトもそれに負けてはいられない。

 アリアが起きている時間に帰らなくてはいけないため、早めに作業を終わらせる必要がある。


 こうして。

 それぞれの目標の中、作業を再開するのであった。


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