完全必中
「クク、手加減はせぬぞ」
アリアは歪んだ空間の中で自由自在に動く。
ガレウスのスピードは二分の一以下。
アリアから見れば、ハエが止まりそうなスピードだ。
攻撃を入れるタイミングはいくらでもある。
逆に言うと、ガレウスの攻撃を食らう要素は一つもない。
今回も、いつものように一方的な戦いになるのだろう。
そう思っていた。
「ん?」
アリアに生じる異変。
もちろんそれにアリアは気付く。
自分の体が、自分の想像とは違った動きを勝手にしたのだ。
今までにこんな経験はない。
何か強引に引っ張られているような感覚。
とてつもない引力で、ガレウスの方に引き寄せられた。
――その先にあるのは、ちょうどガレウスが振り下ろしている大剣だ。
「クッ!?」
引っ張られたアリアの体に、ガレウスの大剣が直撃する。
アリアも鎧のような服を着ているが、それで受け止めるにはあまりにも強すぎる衝撃であった。
正面。肩から脇腹にかけての袈裟懸け。
まともに食らってしまったため、久しぶりにボタボタと血が流れた。
「??」
「油断したな、大魔王アリア。何が起こったか分からないだろう?」
「今……儂は避けようとしたはずじゃが」
困惑。
《空間掌握》を発動している状態で、初めてアリアは攻撃をまともに食らった。
自分の腹には大きな傷が入っている。
ダメージだけなら特に問題はない。
しかし、不気味なガレウスの能力に、アリアは一歩引いた状態を保つしかなかった。
「どうした? 近付かないのか?」
「わざわざ無駄にダメージを食らう理由はないからな」
「賢明な判断だ……相手が俺じゃなければな」
そう言うと。
ガレウスは、またもや力いっぱいに大剣を振り上げる。
しかも――アリアに向かってではなく、真後ろに向かって。
当然ガレウスの後ろにアリアはいない。
どういうわけか、何もないところに大剣を振り下ろしたのだ。
もはやこれは攻撃と言えるのか。
そんな意味不明な行動の意味を、アリアはすぐに知ることになった。
「――な」
「フンッ!」
ブラックホールのような引力で、アリアの体が強引に引き寄せられる。
やはり引き寄せられたのは大剣の下。
ガレウスがちょうど大剣を振り下ろすタイミングに合わせて、アリアが当たりに行く形になってしまう。
避ける時間はもうない。
……そもそも、避けようとしても無駄であろう。
ガレウスの能力は何となく分かった。
攻撃が標的に絶対命中する能力。
至って単純であり、だからこそ強力なものだ。
「チッ!」
アリアは大剣を鎧部分と腕の骨で受け止める。
鎧の部分は簡単に破壊された。
何とか腕は切断されなかったが、それでも痛いものは痛い。
致命傷だけは先ほどから逃れているものの、このままだと戦闘不能になるのも時間の問題だ。
「これが《完全必中》だ」




