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南の魔王ガレウス

 南の魔王軍拠点最深部。

 その静かな空間では、魔王と従者のやり取りが行われていた。


「ガレウス様。第一、第二階層が突破されました」

「早いな。流石大魔王アリアだ」


「このままですと、間違いなくこの階層まで到達されるかと」

「……問題ない。いずれ戦う相手だからな」


 南の魔王ガレウスの元に現れた従者からの報告。

 その報告の内容は、決して穏やかなものではない。


 たった今、この拠点でとてつもない化け物が暴れている。

 恐らく過去最強の敵。

 しかも幹部たちは全員出払っているため、ガレウスとアリアの直接対決だ。


 この二人が拳を交えたら、一体どうなってしまうというのか。

 従者も何とか冷静さを保っているが、興奮で胸が張り裂けそうだった。


「大魔王アリアの実力はどうだ?」

「圧倒的です。無礼を承知で申し上げますが、ガレウス様と並ぶ力を持っています」

「能力はどうだ?」

「……不明です。全ての兵が一瞬で殺されているため、判断することができません」


 アリアに関する情報を集めようとしても、従者から有益な情報が出てくることはない。

 今判明しているのは、アリアがとにかく強いということだけ。

 能力が判明すればかなり有利になるのだが、それも残された時間では無理そうだ。


「ガレウス様。今なら、幹部の皆様を呼び戻すことも可能かもしれませんが……」

「必要ない。奴らも侵攻を進めているはずだからな」

「し、しかし、大魔王アリアが目の前に――」


「必要ないと言っているだろ。どうせ間に合わん。それとも、お前は俺が負けると思っているのか?」

「そ、そのようなことはありません! 失礼いたしました!」


 ガレウスは少し脅すような形で従者の提案を却下する。

 この場に大魔王アリアが来たことは想定外であるが、今から慌てたところで何の意味もない。

 そもそも、このタイミングで呼び戻したところできっと間に合わないであろう。


 これで幹部たちを呼び戻して、侵攻を中途半端に失敗させる方が論外だ。

 ガレウスの欲張りな性格の前では、ありえない選択肢であった。


「それで幹部たちの方は順調なのか?」

「……まだ誰からも報告がない状況です。少々嫌な予感がします」

「うむ。あいつらが苦戦するとは考えにくいが――」


 ガレウスのため息。

 今までの侵攻の中で、ここまで雲行きが怪しかった経験はない。

 いつもなら、ガレウスが眠っている間に侵攻が終わってしまうこともあった。


 相手が大魔王アリアの仲間とは言え、こうも違いがあるものなのか。

 長期戦になっている可能性もあるが、誰かが負けてしまったパターンも考える必要がありそうだ。


「まあいい。苦戦する方が面白いからな」

「ガ、ガレウス様らしいです」


 従者はそれ以上何も言わずにペコリと頭を下げた。

 ガレウスが楽しんでいるのなら、従者が焦っても滑稽なだけである。

 ガレウスが強者と戦う時はいつもこうだ。


 まるで遊んでいるかのように勝負を始め――そして勝つ。

 西の魔王を潰す時も、確かガレウスは笑っていた。

 大魔王アリアが相手でも、それは変わらないらしい。


 この侵攻はガレウスの敵がいなくなるまで続く。

 そして世界がガレウスを王と認めた時。

 ようやく終わりを告げるのだ。


 その日が来るまで、従者として職務を全うするのみ。


「――ということだ。お前はこの場から離れろ」

「え?」

「お前の想像以上に大魔王アリアは強いようだ」


 ガレウスは立ち上がりながら従者を突き放す。

 従者が何も分からないままうろたえていると――。

 この部屋の扉が優しく開かれる。


「ん? ここが一番奥か?」

「ようこそ、大魔王アリア。わざわざ出向いてくれるとはな」


 そこに現れたのは。

 話中の人物――大魔王アリア。

 従者との連戦があったのにも拘わらず、疲れた様子は一切見せていない。


 いや、それどころか、アリアには返り血さえ付いていない。

 どうやって戦ったのかは知らないが、血を浴びずに数百もの従者を倒すことは可能なのか。

 不気味な存在だ。


「ふーん、お主が南の魔王か。まあ、想像通りの姿じゃな」

「そうか。逆にお前は予想外の姿だ。それは仮の体か?」

「仮などではない。正真正銘、儂の体じゃ」


 ククク――とアリアは笑う。

 アリアの体は、子どもかと勘違いするくらいに小さい。

 その顔は右手一つで握りつぶすことができそうだ。


 あまりにも不自然なため、仮の姿ではないかと聞いてしまうほど。

 もちろんアリアを侮るようなことはしないが、拍子抜けと言わざるを得なかった。


「お主はなかなかに物騒な恰好をしておるな」

「これは強さの証明だ。かつての強敵の骨を使っている」

「趣味が悪いのじゃ」


 ガレウスが身にまとっているのは、何者かの骨で作られた鎧。

 よく見れば、様々な種類のものを組み合わせて作っている。

 防御力がどれほどのものなのかは知らないが、少なくとも着たいとは思わない代物だ。


 兜には牛のような魔獣の骨。

 肩にはドラゴンの牙。

 胴には肋骨のようなもの。


 それらが合わさって、何ともおぞましい雰囲気が漂っていた。


「まさか大魔王の座がお前のような奴に受け継がれているとはな」

「ククク。不満か? なら力ずくで奪ってみるといい」

「当然そうさせてもらうつもりだ。そのために侵攻を始めたのだからな」


 ガレウスは玉座の隣にある大きな剣を掴む。

 魔王同士――戦いの始まりをわざわざ宣言する必要は無い。


 敵でありながら、阿吽の呼吸とも呼べるほどピッタリ波長が合っている。

 アリアが一歩踏み出すと。

 ガレウスもそれに合わせて一歩踏み出す。


「ガ、ガレウス様!」

「まだいたのか。この場から離れろと言っているだろ」

「で、ですが……」


「いい加減にしないと殺すぞ」

「――ひっ!? すみませんっ!」


 ガレウスは振り向くことすらせずに従者をこの場から追い出す。

 別に従者が戦いに巻き込まれて死んだところで、ガレウスに問題があるわけでもなかった。

 ただ無駄に仲間が死ぬ。


 それを避けただけに過ぎない。

 そんなことよりも、アリアがこの光景を黙って見過ごしたことの方が気になる。


「どうして何もしてこないんだ? 絶好の攻撃タイミングだったはずだが」

「儂がそんなつまらぬことをする奴に見えるのか?」


「甘いな。大魔王とは思えん」

「強者の余裕じゃ。弱者には分からんかったようじゃな」


 ガレウスが軽く挑発をしてみても、アリアが冷静さを崩すようなことはなかった。

 ペラペラと喋っているように見えて、アリアには全くと言っていいほど隙がない。

 どのタイミングで攻撃を仕掛けても完璧に対応してきそうだ。

 少しだけ睨み合う時間が続く。


「さあ、かかってくるのじゃ。怖気づいたのか?」

「まさか――行くぞ」

「《空間掌握》」


 ガレウスが大剣を振りかぶったところで。

 アリアは《空間掌握》を発動させる。

 この拠点は地下に作られているため、《空間掌握》には打ってつけの場所だ。


 地上からかなり離れていることにより、無理やり《空間掌握》を解除するのも不可能。

 ガレウスは圧倒的に不利な状態で戦うことを強要される。


 そうして――空間が歪んだ。




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