殲滅するアリア
「――もう来てます!」
調査兵が叫ぶと、第一階層と第二階層を繋ぐ扉が破壊される。
強引に蹴り破られる形。
一応バリケードを作っていたのだが、扉の外から簡単に吹き飛ばされてしまった。
かなり荒々しい性格というのが見て取れる。
たった一人で攻め込んできているというのに、ここまで堂々としていられるものなのか。
雑兵たちは武器を強く握った。
「……ほお、数だけは充実しておるな」
侵入者は感心するように呟く。
この言葉だけで、自分たちが敵として認識されていないのは何となく伝わってきた。
歩みを止める気配すらない。
こいつの前に立ったら殺される――。
雑兵たちは直感的にそれを察知した。
「南の魔王は従者を多く作るタイプか。クク、若いというか何というか」
「お、おい! 止まれ! これ以上先に進むなら殺すぞ!」
「従者の質も残念じゃな」
雑兵が止まるように指示をすると、侵入者は以外にもあっさりと足を止めた。
そして、雑兵の方へ目線を向ける。
冷たい目。
見つめられただけでも凍ってしまいそうだ。
そのせいで、雑兵もなかなか次の言葉が出てこない。
威圧によって胃の中のものが込み上げてくる。
「い、いったいお前は何者なんだ!?」
「大魔王アリア――聞いたことはないか?」
「だ、大魔王……? 適当なことを言うな!」
「お主らの王から聞いておらぬのか? ……まあ、お主らのような雑魚に一々報告はせぬか」
大魔王アリア。
侵入者はそう名乗る。
アリアという名前は聞いたことがないが、大魔王という称号ならば雑兵でも知っていた。
何を隠そう、それはガレウスがずっと狙っている称号なのだから。
その称号を得るためには、倒さなくてはいけない相手が多すぎる。
いくら強者のガレウスといえど、ずっと得ることができなかった称号だ。
そんな最強の証とも言える称号を、こんな娘が持っているなんてありえない。
「さて、南の魔王はどこにいるのじゃ? 正直に言えば見逃してやるぞ」
「ふざけるな! 絶対に通さんぞ!」
「そうか。うーむ」
アリアは意外そうな表情を見せると。
まあいいか――と息を一つ。
そして何事もなかったかのように歩き出した。
「え……ま、待て!」
「話を聞いてなかったのか!?」
「どうなっても知らんぞ!?」
「うるさいのじゃ。死ぬ時くらい静かにしろ」
雑兵たちを黙らせるアリア。
この一言で、アリアを止める言葉は聞こえなくなる。
雑兵たちが戦慄して黙ったわけではない。
物理的に、その声を発することができなかったのだ。
死――という結果によって。
「――!」
「――!?」
「――ッハ!?」
次の瞬間。
アリアの周りにいた雑兵たちが一斉に倒れる。
その者たちの中に、もう動いている者は誰もいない。
全員の息の根が完全に止まっていた。
この場で立っている存在はアリアだけ。
アリアは死体の上をご機嫌に歩く。
「あまり期待できるほどではなさそうじゃな。南の魔王とやらも」
グリグリと死体を踏みつけながら、アリアは残念そうな顔をしていた。
魔王の強さというのは、従者の質で何となく分かってくる。
今のところ、従者の質としては魔王の中でも最低レベル。
もちろん精鋭でないのは分かっているが、それにしてもレベルが低すぎではないか。
数を集めるのはいいのだが、アリアとしてはあまり好みではない構成方法だ。
既に興が削がれつつある。
「これなら幹部の相手も儂がすればよかったのじゃ」
リヒトやドロシーが聞いたら目が飛び出そうなセリフ。
ただし、アリアに限っては冗談などではない。
南の魔王プラス幹部全員。
これでもアリアは戦いを迷わずに挑むだろう。
実際はロゼを始めとした下僕たちが幹部の相手をしているが、ちゃんと勝利しているのであろうか。
少し心配する気持ちが出てきたところで、アリアはその考えをポイっと捨てる。
そんなことを考えても戦いの邪魔になるだけであり、現実は何も変わらないのだから。
それに、自分の下僕を信用しないなど魔王失格だ。
もし敗北を喫していたとしても、その時は自分がカバーをすればいい。
とにかく今は南の魔王を倒すだけである。
「行くか」
アリアはもったいぶらずに決心すると。
南の魔王と対面するためにも、奥へ奥へと進んで行くのだった。




