悲鳴
「ミリア! お姫様、喜んでくれてたね!」
「うん……! 緊張したけど、報告できて良かったよー」
アルシェへの報告を終え、木陰で休憩を取っているミリアたち。
本当は家に帰って両親に顔を合わせるべきなのだが、まだ心の準備というものができていない。
ミリアの両親は派遣に反対していた。
ミリアはそれを何とか押し切って派遣に参加したため、少しだけ再会するのが怖いのだ。
怒られるだろうか――それとも帰りを喜んでくれるだろうか。
自分は派遣で得られた経験を話すつもりだが、それを聞いてもらえない可能性だってある。
もしかすると、アルシェに合うよりかも緊張しているかもしれない。
「じゃあ私は家に帰るね。お母さんに話したいこともいっぱいあるし!」
「分かった。また明日ね」
「ミリアはまだここで休むの?」
「……そうだね。もう少しここにいようかな」
「ふーん……まあいいや」
じゃあまたね――と。
ミリアはフラフラと手を振る。
もう別れてしまうのは寂しいが、彼女たちの親が待っているから仕方ないのだろう。
自分もそろそろ帰らなくては。
……なんてことを考えていた時だった。
「――きゃあああああぁぁぁ!?」
誰かの悲鳴が、どこか遠くから聞こえてきた。
ただ事ではない様子だ。
それはまるで命の危機に直結しているような。
そんな悲鳴であった。
「ミ、ミリア。今の声聞いた?」
「うん……何かあったのかな?」
「まさかとは思うけど、敵が来たっていうわけじゃないよね?」
「て、敵? 見張りの人がいるから、それはないと考えたいけど……」
ミリアは立ち上がって木陰の外に出る。
太陽がちょっとだけ眩しい。
それ以外は、いつもと特に変わりのない光景だ。
自分たちがいるのは国の中心部。
もう少し先に行けば、何が起こっているか分かるかもしれない。
「……私、行ってみるね」
「え? 大丈夫なの? 危ないかもよ……?」
「様子を見てくるだけだから。もし何かあったら、すぐに戻ってくるから心配しないで」
「そっか……私はお父さんとお母さんのところに行かなくちゃ」
「うん。気を付けて」
「ミリアこそ」
そう言って、今度こそ二人は分かれる。
ミリアが騒ぎの起こっているところへ行く必要は全くないが、今は両親に会わないでいい理由が欲しかった。
それに加えて、好奇心の強い性格がミリアの足を動かしている。
このまま家に帰っても、今日はスッキリしない夜になるだろう。
それくらいなら多少時間を使っても見に行く方がマシと言えた。
「あ、ミリア! 久しぶり!」
「リ、リリカ! 久しぶりだね」
そこで、ミリアは一人の友達に遭遇する。
リリカ――優しくて仲のいい女の子だ。
まさかこんなところで合うことになるとは。
家が少々離れているため、このようにして約束せずに偶然会うのは珍しい。
それだけに、普通に会うよりかも嬉しく感じてしまう。
「リリカは何してるの?」
「えっと、買い物に来てたんだー。ミリアは?」
「私はディストピアの派遣から戻ってきたばかり。家に帰ろうとしてたけど、騒ぎをちょっと見に行こうかなって」
「すごい! リヒトさんのところに行ってたんだ! どうだった!?」
リリカは目をキラキラさせてミリアに問いかける。
ミリアに対する視線は尊敬そのものだ。
リリカにとってディストピアは特別らしい。
しかし、そう考える気持ちもミリアには分かる。
確かリリカは、大蜘蛛に襲われているところを、ディストピアのメンバーであるリヒトに助けられた過去があるはず。
その事件があってから数日は、ずっとリヒトの話をしていた。
ミリアの派遣に興味を持つのも当然のことだ。
「リヒトさんはディストピアでも優しかったよ。初心者の私にも分かりやすく教えてくれたし」
「だよねー! いいなー。私も行ってみたいなー」
「リリカも志願したらいいのに」
「そうなんだけど、お父さんが忙しそうだから時間が取れないんだよね……でも、今度志願してみることにするよ!」
――と、リリカの野望を聞いたところで。
ミリアは元の話に戻す。
「リリカはさっきの悲鳴聞こえた?」
「うん。すごい悲鳴だったね。何があったんだろう」
「ねえ、一緒に見に行ってみない? どうしても気になってさ」
「いいよ――というか、帰り道の方向だし」
「あ、そうだったね。ごめんごめん」
ミリアは恥ずかしそうに笑う。
悲鳴が気になりすぎて、当たり前のことを忘れてしまっていた。
自分の悪い癖だ。
「――そうだ。このあと私の家でゆっくりして行ってよ。リヒトさんの話とかもっと聞きたいし!」
「いいの?」
「もちろんだよ。楽しみだなぁー」
リリカとミリアはそれぞれに期待を込めて。
手を繋ぎながら歩き始めたのだった。