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アリアの知らせ


「あれ? もうこんな時間……」


 魔女であるミズキは、体を伸ばしながら遅めの朝を迎える。

 いつも早起きするタイプでは決してないのだが、それでも今日はやけに目覚めるのに時間がかかってしまった。


 あと数時間もしたら、夕方と言っても問題ない時間に入る。

 少し時間を無駄にした感覚になるが、まあいいかと布団からグイグイと抜け出した。


「あー……片付けするの忘れてた」


 起きたばかりのミズキの目に飛び込んできたのは、昨日出しっぱなしで放置していた本や道具の数々。

 昨日の自分を思い出すと、確か薬の研究をしていたはず。


 どうしてお前は片付けまでしなかったのか――と、ミズキは昨日の自分を頭の中で叱りつけた。

 そのせいで今から片付けをしなければならない。

 あまり放置しすぎると毒に変化してしまうため、早急に処理をする必要がある。


「…………片付けはもう少し後にしよ。ご飯食べないと」


 ミズキはバラバラの本を一冊だけ本棚に戻したところで、一つため息をついて階段へと足を向かわせる。

 朝から掃除なんてとてもやっていられない。

 毒に変化するといっても体内に入ったら危ないだけであるため、一刻を争うほどの作業とまでは言い難い。


 今日寝る前の自分が流石に片付けをしてくれるだろう。

 それより今の自分は空腹をどうにかしなければ。

 そのような言い訳をしながら、ミズキは一階の食料庫に到着した。


「桃とイチジクしかないじゃん。缶詰そろそろ買いに行かなきゃ」


 二種類の缶詰の中、ミズキが結局手に取ったのは桃の方。

 買い物にも当分行っていなかったため、あと数日分しか食料が残っていない。


 朝から面倒なことばかりが積み重なる。

 今日は買い物の日をする日にしようかな――と。

 そんなことを考えていた時。


「――わっ!?」


 ガシャンとガラスが割れて、少し大きめのコウモリが飛び込んできた。

 驚いているミズキの前に、一通の手紙が届けられる。

 どうやら、このコウモリが持ってきたらしい。


 そして。

 ミズキが手紙を手に取ったことを確認すると、コウモリは役目を果たしたかのようにポンと音を立てて消えた。

 今までの生活で、このように手紙が届いた経験はない。


 人間界からの手紙なら、普通にポストに届けられるはずだ。

 ゴクリとミズキはその手紙に書かれている内容を見る――。


『南の魔王軍がお主のところに向かっている。気を付けた方がいい。逃げるか戦うかは任せる。魔王アリアより』


 そこには。

 寝起きの頭では信じられないような内容が書かれていた。

 南の魔王軍が全員でやって来るのか。

 アリアたちは助けに来てくれるのか。


 そもそも、どうして自分が狙われているのか。

 聞き返したいことが無数に存在している。

 しかし、非情にも手紙であるため聞き返すことはできない。

 今自分にできるのは、言われた通り逃げるか戦うかの準備だけだ。


「どうしよう……逃げた方がいいかな」


 ミズキが出した結論は――やはりここから逃げるというもの。

 戦うと言う選択肢はあったが、それは自分の好みではなかった。

 アリアには情けないと言われてしまうかもしれないが、そんなことに気を遣っていられるような余裕もない。


 とにかく動き始めねば。

 そう考えてミズキは行動し始める。

 し始めた――が。


「え」


 大きな衝撃を受けて、ミズキの屋敷はグラグラと揺れる。

 本棚は倒れ、椅子はガラスを突き破り外に飛び出てしまった。


 まさかもう南の魔王軍が到着したというのか。

 アリアの報告を受けてまだ数分しか経っていない。


「――っ、やばい。《水流創造》!」


 そんな混乱しているミズキを待つことなく。

 南の魔王軍であろう存在は攻撃を続ける。

 メラメラと屋敷の入り口が燃え始めたのだ。


 一瞬で勝負を決めようとせず、ジワジワと嫌がらせをするような戦法である。

 それはミズキの反応を楽しんでいるかのような。


 ……気に食わない。

 きっと腐った性格をしているに違いなかった。

 自分の作った水流で火が消えたことを確認すると、ミズキは窓から外に飛び出る。


「《青龍火炎》!」


 ミズキの反撃。

 青い炎が、屋敷の周辺を綺麗な丸で囲む。

 最初は逃げようと考えていたが、もうそれも不可能だ。


 そもそも、こんなことをされて黙っていられるわけがない。

 戦うしか選択肢がなくなった以上は、本気で戦うまでである。


「どこにいるの!」


 大声とまでは言えないものの、ミズキなりに精一杯声を張り上げて敵を確認する。

 思えば、戦いという行為をするのは百年ぶりくらいだ。

 一応アリアに命令されて数人の人間を殺したこともあるが、あれは戦いと呼べるものではない。


 実力に差がありすぎると、それは戦いではなく虐殺になってしまう。

 同じ実力の者同士で争うからこそ戦いと呼べるのだ。

 そう、それはまさに今回のこと。


 敵の魔力などから推測すると、自分と同等の実力があることが見て取れた。

 この屋敷は強力な結界で守られている。


 そんな屋敷を先ほどのように揺らすのだから、もしかすると自分以上の力を持っているかもしれない。

 その事実に少しだけ嫉妬のような気持ちが湧いた。


「出てこないつもりなら――」


 ミズキは半径数十メートルの範囲で、強烈な雷をランダムに落とす。

 人間なら掠っただけでも黒焦げになる威力だ。


 たとえ南の魔王軍であっても、ダメージを与えることくらいならできるはず。

 雷の耐性がゼロだとしたら、そのまま殺してしまってもおかしくない。


 ただ、それはあまりにも希望的な観測であるため、期待しすぎないように敵が出てくるのを待っていたのだった。



お久しぶりです。

12月25日に『死者蘇生』コミックス一巻が発売となりました!


それに応じて、web版も新章から更新を再開できればと思います。

応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひっさびさー!の更新、お疲れ様です。このまま更新を継続していただけると嬉しいです。 REXコミックでの連載も、読んでますよ。──で、あたしはドロシーってなんとなく干物女か喪女っぽい格好のキャ…
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